📖 創作･携帯小説

｢瑠音 美咲｣

今日は高校の入学式。
禿げかけの校長が私の名を呼ぶ。

桜花高校。
この高校に入るために今まで勉強を怠らず頑張って来た。

やっとの思いで入った高校。

何故かって？
それは私の大好きな人がいたから。

“いたから"それは過去形で現在進行形ではないということ。

大好きな人は消えてしまった。
私に辛いという思いだけを残して。

あの人が消えてしまってから、“また"わからなくなってしまった。

私がこの世界に生きている理由が。

｢大葉 春人｣

私の名前の次に校長が呼んだその名前。

後ろを振り向くとそこには君がいた。
無表情で冷め切った目をした君が。

そんな君と目が合う。
私はすぐに目を反らす。


神様、ねぇ、神様。
なんで私に意地悪するの？
酷いよ、酷いよ。


なんで死んだはずのあの人がこんなところにいるの？

違う。

なんでこんなにも似ているの？

死んだあの人に
似ている君。


辛くなってしまう。
涙が出そうになってしまう。

堪えるんだ。
もう泣かないって
決めたんだよ。

私は今自分の教室の前に立っている。

自分の教室と言ってもまだ入ったことはない。

｢教室入れないんだけど。邪魔だからどいて｣

突然後ろから声を掛けられてビクついてしまう私の体。

低くも高くもない
心地よい甘い声。


振り向くとまた君が。
冷めた目で私を見下す君が。

同じクラスだなんて。
涙を堪えることのない日は来るのだろうか。

｢あ、さっき俺のこと見てた人だ｣

｢…｣

何と言えばいいのか分からず俯いてしまう。

どうしよう。

｢何？俺に惚れちゃった？｣

いたずらに笑う君。

性格悪そう。

｢そんなわけ…｣

でも、どうしよう。

きっと。
イヤ、絶対。
死んだあの人に顔が似ているせいで

今私の目の前にいる貴方に
ドキドキしている。

「よろしくね？瑠音美咲ちゃん」

君は目を細めてまたいたずらに笑う。
いちいちドキドキしてしまう自分が腹立たしい。

顔が似ているだけなのに・・・。

それより—

「なんで私の名前・・？」

驚いたのはそこだった。

「さっき入学式で覚えたよ」

「へぇ…」

「俺の名前わかる？」

「…知らない」

わざと知らない振りをした。
好意を寄せているなんて思われるのは嫌だったから。
私が好きなのは
あの人だけ。

あの人。

松田　琉夏だけ。

琉夏…。


会いたいよ。

気になる人が出来てしまった。

その人はね
琉夏に似ているの。

だからこそ
琉夏に会いたいの。

そうすればそんな人
どうでも良い存在になってしまうはずだから。

優しく抱きしめてほしい。
琉夏。琉夏。

死んだなんて
まだ受け止めきれないよ……。

｢俺、大葉春人！覚えておけよ！｣

｢うん…｣

意地悪したり
憎たらしく笑ったり

今度はそんな笑顔を見せるの？

ずるいよ。君はずるい。
また琉夏と重ね合わせてしまう。

｢それより早く教室入んぞ｣

春人はドアの前に立つ私を邪魔とでも言うようにどかしドアを開けた。

春人を前に教室に足を踏み入れる。

まだ一人の子はいるが、だいたいの友達のグループは出来上がっていた。

それよりも、だ。

さっきから女子からの視線が痛い。

｢…｣

何故だと思う？
大体の予想はついている。

それは美少年の春人が私の隣にいるから。

金色の髪と何もかもを見透かすような青い眼球。
丁度よく焼けている肌。

女子の理想にはピッタリの顔。
琉夏もそうだった。

女子が放っておくはずがない。

女子達の会話を聞けば

｢あの子って春人君の彼女？｣
｢やだぁ、釣り合わない！｣
とか
色々聞こえてきて少しだけ悲しくなってくる。

全部春人が隣にいるせいだ。

｢あ、俺とお前の席隣同士じゃん｣

黒板に貼ってある座席表を眺めながら言う春人。

｢…最悪｣

｢改めてよろしくね、美咲ちゃん｣

そしてまた悪戯に笑うのだ。

---

｢美咲…｣

｢……琉夏？｣

今私の目の前には琉夏がいる。
寂しそうに笑ってる。

｢琉夏…会いたかった｣

琉夏を抱き締めようと足を動かそうとするが
動かない。

手も足も

いつのまにか声も出なくなる。

｢美咲、愛してるよ｣

言いたい。
私も愛してるよって…。

｢悔しいけどさよならだ｣

何を言ってるの…？
琉夏…？

｢美咲はもう出会ってしまった｣

何を…。

｢運命の人に｣

琉夏の悲しい笑顔。
私はただ涙を流して琉夏を見つめていた。

---

｢夢…？｣

ハッと目が覚めて出た一声。


この日はあの夢が気になって授業に実が入らなかった。

「美咲〜次教室移動！家庭科室！」

つい最近仲良くなった友達の市原津笠。

津笠がいてくれてよかったよ。
津笠は一番の私の親友だよ…。

「あっうん！」

…キーンコーンカーンコーン

「やばっ…チャイム鳴った！遅れる！」

「あぁ、もう！」

家庭科室に着いた時にはもう遅かった。
二人揃って先生に叱られてしまった。

ふと視線を感じて見ると
そこには私を見て笑いをこらえている春人がいた。

そんな春人を私は睨みつける。

……本当性格悪いな。

「だっせ」

長い先生の説教が終わり自分の席についたときに春人に言われた。

「うるさいなっ！」

春人とも結構仲良くなれた…んだと思う。

いきなりごめんなさい

ちょっとこの小説あきてきたので


新しいのに変えてもよろしいでしょうか…？

本当にごめんなさい

誰も見てくれる人いないし…

よろしければ消しますね

8番さんナリ乙です

｢今日も夫婦喧嘩か。熱いね〜｣

津笠が私と春人を交互に見て言う。

｢違う！｣
｢そうそう。俺等熱いの｣

私は必死に否定するけど春人はそんな私を面白がっている。

そんな私と春人を見て津笠は笑う。

幸せだった。
涙が出そうになることなんて無かった。

｢美咲と春人君お似合いだよ｣

ずっとこの幸せが続けばいいと思ってた。
ううん、違う。
幸せが続くと思ってた。

｢辞めてよ津笠〜…｣

｢あたしはほんとのこと言っただけ｣

だから不幸が降りかかるとまた神様を恨んでしまう。

なんて最低なんだろう。
私は…。

この小説好きです。
頑張ってください。

恋菜さん＜
こんな小説を褒めてくれる方がいて嬉しくてたまりません←ありがとうございます

更新の励みになりました！

すみません
上の人は私です
名前まちがえました

いぃｗｗｗメチャ感動するわぁ

なむなむさん＜
ありがとうございますううううううry
こんな駄作を褒めてくれて私も感動です

｢み………き…｣

あ…。誰かの声が私を呼んでる。
聞き覚えがある。
誰だっけ…？

｢美咲｣

えっと…

………春人！
そうだ。この声は春人だ。

伏せていた顔をあげるとすぐそこに春人の顔があった。

｢…何｣

｢やっと起きた｣

私は授業中に寝てしまっていたらしい。
もう休み時間になっていた。

｢津笠は？｣

そういえば津笠の姿が見当たらない。
家庭科室には私と春人の2人しかいなかった。

｢先に教室戻った｣

｢酷い。津笠｣

｢美咲でこ赤くなってるよ｣

｢いちいち言わなくていい｣

言うと春人は私の目を真っ直ぐに見つめて優しく笑う。

そんな風に見つめないで。
春人から目が離せなくなってしまう。

また、重ねてしまう。

｢美咲？｣

琉夏に。

｢どうした？｣

｢…る……か…｣

｢え？何か言った？｣

…あ。
駄目だ。

泣きそうだ。
駄目だよ。

泣いちゃ駄目だ。

｢な…んでもない｣

泣きたくないと思うほどに泣きそうになってしまう。

人間って変な生き物だ。
今にも涙が溢れそうだよ。
｢ほら、さっさと教室戻んぞ｣

｢…うん！｣

目に溜まった涙を拭って早足で前を歩く春人を小走りに追い掛ける。

｢お前足遅い。さっさと歩け！｣

｢っるっさいな！｣

二人の教室までの競争が始まった。

もちろん足の早い春人に私が勝てるはずもなかった。

｢…っはぁ…はぁ…｣

｢お疲れー｣

私は息切れしているのに春人は余裕とでも言いたげな顔をしている。

｢何でそんなに足早いのー｣

｢俺中学のとき陸上部だったから｣

｢今は？｣

｢美咲苛め部！｣

｢はぁ！？｣

春人はまた笑う。
いちいちドキドキして
また辛くなって。

春人と出会ってから毎日がそれの繰り返しだった。

小6だろ？

18さん＜
私一応高２なんですね

るちさんってなりきりでニノとか翔ちゃんやってる人ですか?

20さん＜
すみません
違います

人違いでした
ごめんなさい。
気にしないでください

学校の放課後。
夕日がきれいだ。

「また明日」

そう言って津笠は帰って行った。
春人はというと
私の前の席に座って私をジッと見つめてくる。

春人の青い瞳に吸いこまれていきそうだ。

「…私の顔になんかついてる？」

「ついてないよ」

「そんなに私の顔面白い？」

「面白くないよ」

「なら何で見てるの？」

「美咲、綺麗だなと思って。見とれてた」

顔が熱くなっていくのがわかる。
心臓がリズム良く鳴り始める。

「……」

「耳、真っ赤」

「ばー・・か」

赤くなった顔を隠すため春人に背を向けた。

「つぅかもう暗いな」

気付けばもう6時をまわっていた。

「私、そろそろ帰る」

「俺も帰るから途中まで一緒に」

「仕方ないなぁ・・」

いつも一人で帰っていたから
人と一緒に帰るのは久しぶりで
なんだか楽しくて嬉しかった。

「私こっちだから・・・」

「ん、じゃあまた明日な」

「またね」

十字路で別れてしまうときは寂しくて・・・
胸の奥がキュウッてなった。

琉夏のときもそうだったなぁ。
やっぱり似すぎてるんだよ。
琉夏と春人は。
だから胸が苦しくなるんだよ。
私は。

「はぁ・・・・」

春人はこれを知ったらどんな反応を示すのだろうか。
なんとなく・・・
なんとなくだけど
少しだけ
本当に少しだけ
知られてしまうことが
怖かった。

「おはよー」

教室のドアを開いて言う。
また今日もこの言葉で始まる一日。

「あ、美咲。珍しく早いじゃん」

「春人？」

教室には春人一人しかいなかった。

「美咲　数学の課題やった？」

「あっ！やばい！やってない…」

「なんだよー　俺お前の写そうと思ってたんだけど」

「もう…たまには自分でやってきなよ」

そう言いながらも、私はキャラ物のファイルから昨日出された数学の課題プリントを取り出し書かれている問題を解きはじめた。

「頼りにしてるよ？美咲ちゃん」

「いいから…黙ってて･･」

「…」

「……」

・

・　　

・

「出来たー！」

その課題が終わったころにはもう教室は生徒でいっぱいになっていた。
春人なんかは私の机に肘をついて寝ている。

「お〜い…春人くーん…」

声をかけてみるが一向に起きる気配はない。

「はるとー･･」

そのあとも何度か声をかけてみたがまったく反応を示さないので諦めることにした。

嫌でも春人の顔が目についてしまう。

近くて見ても綺麗なんだなぁ・・。
まつ毛長いし
綺麗な二重だし
肌も綺麗だし…。

なんか羨ましい…。
ちょっぴり妬けちゃうな。

そんなことを思っていると春人の目がそっと開いた。

「俺…寝てたの？」

眠たそうに目をこする春人。
その仕草にドキドキしてしまう。

ふいにも思ってしまった。

可愛い…などと。

｢美咲 なんか顔赤くない？｣

｢そ、そうかなぁ！気のせいじゃない？｣

笑って誤魔化す。

火照った体。
落ち着け私。

｢春人ぉ〜！｣

え？

｢おー、里佳子｣

誰…？

｢おはよぉ、春人っ｣

誰？
その女の人は
誰…？

見せ付けるかのように私の目の前で春人といちゃつく里佳子という人物。


何…コレ。
胸が締め付けられているような痛み。


｢はる…と｣

小さな声で呼んでみるけど気づかない。


気付いて。

｢…はると｣

きづいて。

｢春人…｣

何故気付いてくれないの…？


そんな私を面白かるように里佳子さんは笑う。


｢やめて…｣

｢え？｣

この声には気付いてくれたようだ。



｢私の…私の｣


｢私の琉夏に触らないで…｣

がんばれ♪



もし宜しければ、あたしの

『広がるのは…』
も見てみて下さい。

ヨロシクﾃﾞｽ



宣伝みたいになっちゃってすいません。

ゆあゆあさん＜
後で見に行かせていただきますね

｢｢は？｣｣

里佳子さんと“琉夏"はそう言って一斉に私を見る。

｢琉夏って…誰？｣

春人が言う。
その言葉にハッと我に返る。

｢あ…えっと…｣

｢うん｣

｢…ごめん。何でもないの。今のは忘れて｣

私は教室を飛び出し行く宛も無しに廊下を走った。

足を止めたそこは図書室。

なんで琉夏なの。
なんで重ねてしまうの。
春人は春人なのに。
なんで忘れられないの。
なんで消えてくれないの。なんであんなことを言ってしまったの。


どうしてこんなに胸が痛いの？

私は堪え切れずに静かに泣いた。

ガラガラ…とドアの開く音がして私以外の誰かが図書室に入ってきた。

｢…美咲｣

その人は私の名を呼ぶ。

｢何？｣

私はその人に無理矢理の笑顔を向ける。

その人…。
春人は気付いてしまっただろうか。
私が泣いていたという事実を。

だってね、後から気づいた。私の目は重く腫れ上がっていた。

｢…どうした？｣

やはり気付かれてしまったのだろうか。
春人が悲しそうな目で私を見る。

｢何で来たの？｣

私は春人からの質問を無視し代わりに私からの質問を投げかけた。

｢美咲が心配だったから…追ってきた｣

｢何で？私は平気だよ｣

ついムキになってしまう。
馬鹿みたい。

｢あのさ｣

｢ん？｣

｢琉夏って誰なの？｣

｢…きょ、興味なんかないくせに｣

｢興味あるから聞いてるんだけど｣

｢春人に関係ないじゃん…｣

つい酷い言い方をしてしまった。

｢あっそ｣

そう言って図書室から出ていこうとする春人。

｢待って｣

無意識に春人のワイシャツを掴んでいた。
顔が赤くなっていくのがわかる。

｢大胆だな。襲っちゃうよ？｣

｢話すから…行かないで…｣

正直、話すのは怖い。
けど、春人が離れていってしまうことのほうが怖い。

｢わかった｣

｢話しても行かない？離れない？｣

｢行かないよ。離れないよ｣

｢…あのね——｣


どうか関係が崩れてしまいませんように…。

私は春人に全てを話した。
時に声が震えたけど春人は黙って聞いていた。

｢…｣

｢…｣

沈黙。

破ったのは春人のほうだった。

｢結局俺はお前に琉夏としか見られてなかったんだな｣

｢…｣

｢ちゃんと俺を見て欲しかった｣

｢なんで…？｣

｢本当、鈍感すぎるよお前｣

｢？｣

｢好きだよ｣


暫くの間状況が理解出来なかった。


｢あーぁ、聞かなきゃ良かったわ。お前が琉夏しか見てねーなら俺に勝ち目なんかねーじゃん｣

｢…ごめ｢もういいよ｣

春人は私の言葉を遮り言う。

｢さようなら｣

｢嘘つき｣

春人が出ていった図書室で一人呟いた。

酷いよ。
離れないって言ったくせに。
酷い…。

あれ？

酷いのは
私？

自業自得だね。
また涙が溢れだす。

｢ごめ…ん…なさ…っ｣

ごめん。
ごめんなさい。

涙がやっと止まった後
私は保健室で腫れた目を冷やし、腫れが引いてきた頃に教室に戻ってきた。

もう昼休みで春人は里佳子さんと話をしていた。

その光景を遠くから見ていた。

春人は笑ってる。
里佳子さんは笑ってる。
二人で笑ってる。

お似合いだ
そう思う。

｢あ、美咲！｣

｢津笠…｣

｢どした…？｣

｢私…最低だ…｣

今日は何回泣いただろう。
せっかく止まったと思った涙がまた溢れ出した。

｢え！？ちょ、美咲！？｣

その場に泣き崩れる。

そんな無様な私を春人は見てしまっただろうか。
どう思ったのだろうか。

でも確かに里佳子さんの甲高い笑い声は聞こえていた。

春人が離れていくことが怖かったのは何故？

今、私が辛い思いをしているのは何故？

里佳子さんにヤキモチを妬いているのは何故？

心の中で自分に問いかける。
けど、返事は返ってこない。

事実を知ってしまうのが
怖かったから。

｢春人…｣

｢春人君と何かあったの？｣

｢私が悪いの｣

ごめんね津笠。
話せないの。

｢謝ったの？｣

｢もう聞いてくれないよ｣

｢じゃあずっとそのままでいいの？｣

｢嫌…｣

｢頑張って｣

そう言って津笠は自分の席に戻っていった。

授業中も春人は私と目を合わせようとしなかった。

それから春人と私の距離はどんどん離れて行った。
こんなに春人は近くにいるのに。
春人の心と私の心は遠く遠く—…。

代わりに里佳子さんと春人の距離はどんどん縮まって行った。

「好きです」

そして私は今告白されている真最中である。

「ごめんなさい…」

「どうしてですか？」

「忘れられない人がいるから…」

「それは誰ですか？」

私にもわからない。
琉夏？それとも春人？
わからないよ。

もうわからない。

私がわからない。
春人がわからない。

どんどん崩れて行く私の心。


誰か、
ねぇ、誰か。

本当の答えを
教えてよ—……。

「美咲さんと春人君、後で職員室に来てくださいね」

授業が終わる直前に先生が私たち二人に言った。

何だろう？
行けばわかることか。

そう思い春人より先に教室を出て職員室に向かった。

「失礼します」

「あっ、美咲さん！」

「なんですか？」

「あのね「失礼しまーす」

聞き覚えのある声が先生の声をさえぎった。

「春人君も来たから一緒に話しちゃうわね」

「はい」

「あのね？突然で悪いんだけど…貴方達に学級委員をお願いしたいの」

「「え？」」

「お願いね」

先生は話を勝手に進めていき
私と春人が学級委員をやることになってしまった。

「これ、ホチキスで3枚ずつにまとめておいてほしいの。ちゃんと女子と男子分けてね？」

「…はい」

そういうわけで私と春人は今日の放課後
二人教室に残って作業をしなければならなくなった。

そして放課後。
パチンパチンとホチキスの音しか響かない教室。
会話なんて何処にもない。

「美咲と二人きりって久々だな」

先に沈黙を破ったのは春人。

「なんか懐かしいね」

「そうだな」

会話が終わってしまいそうになる。
私は焦ってつい馬鹿なことを聞いてしまった。

「里佳子さんとはうまくやってる？」

「は？何それ」

「え？」

「何？美咲ちゃん。もしかして嫉妬？」

「そんなわけ…」

「冗談だよ。ばーか」

「……嫉妬したよ…悪い？」

私格好悪い。
今、絶対なきそうな顔してる。

「…俺のこと—」

「—ッ好きだよ馬鹿！鈍感！」

好きだから
辛かった。

好きだから
怖かった。

何も言わないで私をじっと見つめる春人。
そしてフと笑ったかと思うと私をギュッと抱きしめた。

「な、に…」

「ごめん美咲」

「え？」

なんで春人が謝るの？
悪いのは私なのに。

「俺も悪かったんだ。お前のこと利用してた」

この言葉で頭が真っ白になる。

「元カノのこと忘れられなくて…そんな時にお前に出会った。似てた。お前は俺の元カノに。でも似てるのは顔だけだった」

「え…？」

「なんでそんなに違うんだよ。なんでそんなに優しいんだよ」

「……優しくなんか…ない…」

「たとえお前が琉夏しか見てなくても、優しい美咲が偽物の美咲だったとしても好きだから…」

堪えていた涙がついに溢れだした。

私は春人の腰に手を回す。

そして呟くのだ。

「好き」と。

春人は迷子になっていた。

何かを振り切るように始めた一人旅。
気がつけば見知らぬ空港に来ていた。しかも海外。
英語だらけの案内標識。読めない単語が並んでいる。
そもそも英語なのかどうかも分からない。
どうして俺はここに来たんだろう？

雑踏の中で一人立ち尽くす、春人。

そんな春人を突然背後からハグする女！
「えっ！」
嗅ぎ覚えのある、シャンプーの匂い。
背中に感じる、柔らかな胸のぬくもり。
美咲？！
顔を見なくても分かった。
荷物を持っていた手を離し、美咲の腕をそっと抱いた。
騒々しい空港が無音に感じ、目をつむると一気に押し寄せる感情。

「美咲、俺、、、」春人が言いかけると
こちらに向かって歩いてくるヒールの靴音に気がついた。
目を開けるとそこにはサングラスの女。
誰？
女は歩きながら春人の目の前でサングラスを取った。
るち？うっ！
るちは春人の股間を蹴り上げた！
美咲は春人が倒れないように腕にぐっと力を込めた。
何が起こったのか分からない春人。美咲がぱっと腕をはなすと
るちと入れ替わるように里佳子が現れ、るちよりもすごい力で股間を蹴り上げた！
ああっ!!
体が一瞬宙に浮き、崩れるように倒れ込んだ。
頬を冷たい床に押しつけるように踏みつけられる春人。
見えるのは鈍く光るブーツだけ。
爪先から見上げる初めての光景。綺麗な脚線美を強調するストレッチブーツ。
これが誰かは分からない。口も動かせず、情けない声が漏れる。
仰向けに蹴り転がされると美咲はゆっくりブーツを脱ぎ春人の顔に被せた。
股間をグリグリ踏まれ、胸を踏まれ、どっちがるちか里佳子か分からない。
３人をもてあそんだ罰なのか？
初めて嗅ぐ、美咲のブーツの匂いを感じながら
抵抗する気力が消えてゆく一方で、
静かに湧き上がる快感に気がついた。