交通事故の後遺症で植物状態だった35歳のフランス人男性が、脳神経に刺激を与え続けたことで、15年ぶりに意識レベルが回復する奇跡が起こった。
生物学誌『カレント・バイオロジー』に25日、症例が報告された。
この男性は2001年に遭った交通事故の影響で、脳に深刻なダメージを受けて重度の昏睡状態に陥り、いわゆる「植物状態」になった。
フランス・リヨンにあるマーク・ジャンヌロー認知科学研究所のアンジェラ・シリグ氏らの研究チームは、脳と内臓を結ぶ迷走神経に電気信号を送るために、首の中の迷走神経の周囲に細い電極を埋め込み、30秒間刺激を与えては5分間休息する治療を続けた。
電流の大きさは、最初は0.25ミリアンペアに始まり、じょじょに設定数値を上げて、最終的には1.5ミリアンペアになった。
迷走神経刺激療法は、てんかんやうつ病などの患者の治療に使われていて、植物状態の患者に試すのは世界で初めてだという。
刺激療法を始める前には、一日中ほとんど目を閉じていたが、開始直後からひんぱんに目を開けるようになり、1カ月後には室内にいる人の姿を目で追うようになった。
また療法士の指示どおりに頭を反対側に傾けたり、「笑って」などと頼むと、左側の頬をあげるような反応を見せたという。
また、事故に遭う前に好きだったフランスの歌手の曲を聞かせたときには、目に涙が浮かんだほか、研究者が患者の顔のそばに突然顔を近づけたときには、目を見開いて驚いたような表情を浮かべた。
アルツハイマーやてんかんを調べる際に使われるコンピューター断層撮影技術(PET検査)で脳内をスキャンしたところ、運動や感覚、意識をつかさどる領域の機能で活性化が確認され、植物状態から「最小意識状態」に移行したことが裏付けられた。
今回の治療によって、男性が事故前の状態に戻ったというわけではないが、シリグ氏は「研究チームにとって、彼は赤ちゃんのような存在。治療はこれからも続きます。長く植物状態に陥った患者にも、脳には修復機能が残っているという希望を持ち続けて、これからも多くの患者にこの方法を試していきたい」と話している。
【日時】2017年09月27日(水) 06:00
【提供】ハザードラボ