大舞台で頼りになる男が帰って来るかもしれない。
M.デムーロ騎手がここへきて復調急の気配を見せ始めている。
昨年12月には月間未勝利という不名誉な記録でスランプに陥っていたが、今年に入って徐々に成績が上がりつつある。
重賞レースは昨年5月のNHKマイルC(G1)を9番人気のラウダシオンで制して存在感を示したものの、以降は泥沼の48連敗。かつては得意にしていたはずのG1レースでも19連敗と精彩を欠いていた。
しかし、3日のダービー卿CT(G3)ではテルツェットで鮮やかな差し切り勝ちを決めて重賞の連敗ストップに成功。先週土曜のニュージーランドT(G2)では3番人気タイムトゥヘヴンで2着、桜花賞(G1)は5番人気アールドヴィーヴルで5着と悪くない結果を残した。
さらにデムーロ騎手にとって思わぬ幸運となったのは、皐月賞(G1)のパートナーにグラティアス(牡3、美浦・加藤征弘厩舎)を手に入れたことだ。同馬は半姉に19年の阪神JF(G1)を勝利したレシステンシアのいる良血馬である。
グラティアスはC.ルメール騎手とのコンビで1月の京成杯(G3)を2着タイムトゥヘヴンに2馬身半の差をつけて圧勝した期待馬。陣営は皐月賞に直行で臨むことを発表し、他にもお手馬を持つルメール騎手の鞍上問題も懸念されたが、松山弘平騎手とのコンビに落ち着いた。
ところが松山騎手の騎乗停止により、宙に浮いたグラティアスの鞍上にデムーロ騎手が迎えられることになった。
「スプリングS(G2)でランドオブリバティの騎乗が決まっていたデムーロ騎手ですが、自身の騎乗停止でコンビ結成は白紙になってしまいました。騎乗停止も想定外だったでしょうが、グラティアスを任されたのも想定外だったといえます。
タイムトゥヘヴンと挑んだ京成杯で完敗した相手がグラティアスです。ルメール騎手も能力に太鼓判を押していた馬だけに、ここは願ってもないチャンスでしょう」(競馬記者)
グラティアスの皐月賞制覇に追い風となりそうなのが、ルメール騎手の「意味深」コメントだ。
「楽勝でした。体も大きくなって、少し大人になりました。G1レースにもいけると思います」
京成杯後にそう振り返ったルメール騎手だが、実はこの発言が一部のファンから大きな注目を集めている。
大阪杯(G1)を制したレイパパレを大原S後にTwitterで「G1レベル」の相手だったと絶賛。桜花賞(G1)で8番人気の低評価を覆して3着に入ったファインルージュに対しても、快勝したフェアリーS(G3)後に「G1レベルにいけそうな馬だと思います」と評価していたのである。
どちらも共通しているのは「G1」というキーワード、そしてコンビを組んだのがルメール騎手ではないということ。トップジョッキーとして多くのG1馬の手綱を執って来ただけに、評価の正しさを証明する結果にもなっているのだろう。
そして皐月賞に出走するグラティアスも「G1級」の太鼓判を押されたからには、3週連続でG1レースの馬券圏内に入る期待は自ずと高くなる。
近年こそ、もうひとつ波に乗れていなかったデムーロ騎手だが、17年には10回のG1レース騎乗機会ですべて3着以内に入るという快挙を達成した手腕の持ち主でもある。その内訳は【5.1.4.0/10】という「神騎乗」の連続で、競馬ファンを唸らせた。
皮肉にも発言主のルメール騎手は現在重賞レースで13連敗と不調だが、デムーロ騎手の復活にはまたとない援護射撃となるかもしれない。
(文=高城陽)
<著者プロフィール>
大手新聞社勤務を経て、競馬雑誌に寄稿するなどフリーで活動。縁あって編集部所属のライターに。週末だけを楽しみに生きている競馬優先主義。好きな馬は1992年の二冠馬ミホノブルボン。馬券は単複派で人気薄の逃げ馬から穴馬券を狙うのが好き。脚を余して負けるよりは直線で「そのまま!」と叫びたい。