池田が高橋俊一(第二代夕張支部長)の家を訪れた時のことを、次女の高橋節子が書き残している。
俊一夫妻はあいにく留守で、三人の子どもと俊一の母ユキがいた。
池田は「おばあちゃん、いい顔をしているね!」と
両手でユキのほおを撫でて「長生きするんだよ」と言って励まし、
ユーモアたっぷりに「僕がヤマ(炭鉱)を全部買ってあげるよ」と背中をさすった。
二人の娘から仕事の悩みなどを聞き、息子には好きな本を送ってあげようと語った。
節子たちは池田が広い通りに出るまで見送った。
その時、想像もしていなかった言葉を聞いた。
「私は今、警察に追われているだよ」
手が後ろに回っているんだよ、と微笑んだ池田は、両手を腰の後ろにやった。
「何のことかわからず、だまって見送りました」という節子。
「大阪、夕張という二つの大きな闘いを抱えられていたとは知りませんでした・・・・・
夕張の同志のために駆けつけてくださったことに感謝と御恩は生涯忘れません」。
この年4月に大阪で行われた参議院大阪地方区の補選で、
会員に戸別訪問を指示したとの容疑をかけ、大阪府警は池田に出頭を求めていた。
大阪から刑事が上京し、北海道でも動き回っていた。
理事の辻武寿が池田は絶対に逃げないからと説得し、
夕張大会の終了まで出頭を引き延ばしていた。
西島健郎の手記には、夕張市内の末広一丁目の商店の店先で、
池田が電話で話した場面が描かれている。
「『池田が来ないのなら戸田を逮捕すると言っている』との緊急連絡であった。・・・・・
池田室長は何度もうなずきながら『私は大丈夫です、行かせてください』」
電話のそばにいた西島は、よほど重大な事態だと感じた。
同時に、この状況でよく平静でいられるな、と驚嘆した。