📖 創作･携帯小説

高校での試験を終えて下校を開始した俺は、徒歩でバス停に向かう最中に、まずこの携帯電話にて多額の通話料を発生させてやろうと思い時報に発信した。バスに乗り、周りの乗客に自分の知り合いがいないことを確認した後で携帯電話を取り出し、時報の通話を終了し、電話帳・メールを確認した。電話帳には200件以上の人物が登録されており、メールも1日50件以上は送受信されていた。内容を確認し、この携帯電話の持ち主の県工の女子高生がリア充であると分かる。

　確認した内容の要約は下記。
・持ち主の名前は由佳、彼氏は大喜　※本物語中での仮名であり、実際には異なる
・大喜は遊学の就職クラスの高校2年生
・由佳は県工の高校2年生
・ともに内灘在住であり、中学校の同級生
・ともに完全に「べた惚れ」の状態であり、大喜は由佳のことを「ゆかちん」と呼んでいる、S■Xは週2、3回ペース
・由佳が早朝に大喜に送信したメールの本文に「うち昨日の夜からお腹痛くて寝とってん　で起きたら朝4時　化学やってねえっつーの！マジ一人で叫んだね」との記載が有ったことから、この日由佳は生理中

バスの中でメールを確認していたが、自宅最寄りのバス停に着いたため下車した。自宅に着いた俺は早速いたずらを開始することに決めた。まずは大喜の携帯電話に何回かワンコをした。注釈となるが、ワンコとは今では死語だが「ワンコール」の略称で、相手の携帯電話に通話発信し、呼び出し音が鳴ったらすぐに切る行為。主に初対面の相手に電話番号を通知する際の他、当時はコミュニケーションの手段として使用されていた。
　次にメールアドレスの変更が出来るかを試みた。メールアドレスを変更するには4桁の数字の暗証番号が必要となるが、試しに「0000」を入力したところ合致したため、メールアドレスを従来の「電話番号@docomo.ne.jp」から「滅茶苦茶な英数字の羅列@docomo.ne.jp」に変更することが出来た。注釈となるが、当時は今で言うSNSやメッセージアプリ等は存在せず、携帯電話で出来るコミュニケーションの手段としては電話とメールくらいだった。またメールも今のように1端末に複数所持することも不可能であり、キャリア提供のメールアドレスしか使用することが出来ない。このためメールアドレスを変更することは致命的と言える。メールアドレスを変更した俺は、まず電話帳の中から手当たり次第に女性を選択し「■ね」と送信したが、特に誰からも返信が無かった。しかしこの手当たり次第メールを送信している最中に大喜の携帯電話、由佳の自宅から何回も着信があった。俺は大喜も由佳も今必死に携帯電話を取り戻すべく連絡して来ているということが分かったので、大喜に本文に「ヒヒヒヒヒ」とだけ記載したメールを送ってやった。

俺は大喜へのメールを送信後、さすがにもうこの携帯電話が利用停止の手続きを取られることが容易に想像できたため、エロサイトにアクセスしかたっぱしから画像を保存した。利用停止後もエロ画像を楽しむためである。その最中に1通のメールを受信した。内容を確認したことろ大喜からのメールで、本文には「お前■すぞ　どこの奴ねん　東か　県工か　遊学か」と書かれていた。注釈となるが、「東」とは今で言う金沢学院高校のことであり、当時は金沢東高校という名称だったため、学生間での略称として「東」が使われていた。また金沢駅から始発のこのバス経路では、この3つの高校へ行くための経路のため、他の高校の生徒は通学目的では乗車しない。
　俺はこのメールを見た瞬間、これまでの人生の中で一番と言えるほどの大爆笑をした。大喜が彼女の携帯電話を取られ、電話帳にて個人情報となる電話番号・メールアドレスを全部把握され、恋人同士の秘密の甘酸っぱいメールを全部見られ、勝手にメールアドレスを変更され、このような挑発的なメールを送信されたことに、これまでの人生の中で一番と言えるほど怒り狂い、無い知恵を絞って高校名を既に3校にまで特定出来ていると言わんばかりに記載して送ってきたのだと思うと、本当に笑いが止まらなかった。

ひとしきり大爆笑した後でエロ画像の保存を再開したが、そうこうしているうちに通信が出来なくなった。試しに時報へ発信したが電話も使えなくなっていた。さすがに由佳が保護者に言って利用停止の手続きが完了したのだろう。俺は由佳に対して与えることが出来た打撃を想像し、30,000円相当の携帯電話本体、数千円の通話・通信料金、何よりお金で買うことが出来ない電話帳・メールのデータの数々を思うと本当に笑いが止まらなかった。バスから降車時に座席から立ち上がった際に、スカートのポケットに入れていた携帯電話を座席に落としたことに気が付かず、俺が拾うというたかが数十秒の出来事だけで、人生においてここまでの天国・地獄の分かれ道となるのである。
　俺は1ヶ月程、由佳の携帯電話を気が向いた時にエロ画像閲覧、電話・メール閲覧に使用していた。しかしそれだけでは飽き足らず、大喜にさらなる打撃を与えてやろうと思い立ち、休日に電機店のパソコン販売コーナーに行った。そこで販売用に展示されているパソコンを使用し、フリーメールアドレスを取得し、大喜のメールアドレス宛に「ゆかちんのケータイはちゃんと俺が毎日モノに挟んでバイブで■■■■に使用してやってるからな、安心しろ」と送信してやった。無論、実際にはモノに挟んでバイブで■■■■といった行為はは毎日行っておらず拾ってからわずか1回のみであり、記載した本文は大喜を悔しがらせるための誇張表現である。

数日後にまた電機店へ行き、フリーメールにログインしたところ何と大喜から返信が有り、本文には「頭悪いじ」とだけ書かれていた。大喜は本当は俺を■してやりたいくらい憎いはずだが、もう由佳の携帯電話が戻って来ることも無く、気持ちを切り替えて余裕ぶっていたのである。その傷口に塩を塗り込めることが分かった俺は、件名に「キモい」本文に「チューーーーー」（※実際には「ー」の文字が何十文字も大量に埋め尽くされている）というメールを300通送信してやった。チュー釈となるが、この「チューーーーー」（※実際には「ー」の文字が何十文字も大量に埋め尽くされている）というメールは元々は大喜が由佳に送ったメールのうちの1通の本文である。また当時のガラケーのメールの仕様は、受信ボックスの保存件数は端末にもよるが、100～200件程度であり、新たなメールを受信した場合には受信ボックスの中で受信日時が最も古いメールが自動的に削除される仕組みである。ただし自動削除されると困るメールに関しては保護機能を使うことで自動削除の対象外とすることが可能である。またDOCOMOのメールに関しては、当時1通のメールに記載できる文字数は250文字が上限であり、フリーメール等から250文字以上の本文を記載して送信した場合、251目以降の本文は削除されるため、受信側は251文字目以降を見ることは出来ない。当時のメールの受信料については文字数にもよるが、DOCOMOの場合、250文字のメールを1通受け取った場合は約2.1円である。このため俺の大量送信により大喜のメールの受信ボックスのメールを全てこれで埋め尽くしてやり、既存のメールを全て削除してやった上、受信料に関しても2.1円×300通＝630円を無駄にしてやることに成功した。

数日後にまた電機店へ行き、フリーメールにログインしたところ大喜から「アホ」「本当に頭悪いじ」といった返信が有ったため、最後に大喜を地獄に落としてやろうと思い、「遊学の就職クラスとか本当に頭悪いじ」「お前■すぞ　どこの奴ねん　遊学か　2年■組■番か　■■大喜か」というメールを何百通も送信するカウンターを決めてやった。その後数ヶ月はフリーメールを引き続き確認していたが遂に大喜から返信は来なくなった。また公衆電話から非通知で大喜・由佳それぞれの電話番号へ発信したが既に「この電話番号は現在使われておりません」というアナウンスが流れるのみであり、該当の契約が解約されたことを確認した。恐らく、俺に電話番号を知られていることすらも嫌になり、解約・新たな機種を新規で契約して連絡先を変えたのだろう。俺はこの時、今までずっと陰キャとして行きてきた最下層の負け組であり、人生において一切勝ちを実感することが出来なかったが、リア充で週2、3回ペースでS■Xをしているカップルという最上層の勝ち組に大勝利を収めることが出来たことを実感した。勝利後、既に由佳の携帯電話内のコンテンツは全て消費し尽くしていたため、証拠となる携帯電話を処分することを決めた。休日に自転車で海沿いまで移動し、アスファルトに叩きつけ、折りたたみ式の携帯電話逆側に無理矢理力を込めてへし折り、海に捨ててやった。

月日は流れ、俺は高校を卒業後石川県外の大学へ進学し、大学を卒業後その進学先の地で就職し、社会人となり何年もの月日が流れ、この携帯電話のことも既にすっかりと忘れていた。ここ最近コロナウイルスの影響も縮小したため久しぶりに金沢の実家に帰省することになり、その際に電車を降りて金沢駅構内を通った際に昔も今も変わらない制服を着た、遊学男子・県工女子のカップルを見て、この事を鮮明に思い出した。あの時とても悔しい思いをした大喜・由佳を少しでも供養してやろうという気持ちになり、後世にきちんと残る形にしてやろうと思い、本物語を作り上げた。