同志社大学教授 渡辺武達
ないがしろにされたメディアの倫理
この五月三〇日、いわゆる信平訴訟(東京地裁民事二八部、平成八年ワ第一〇四八五号損害賠償請求事件)がその提訴内容に整合性がなく事実とは信じがたいこと、よってこれ以上の裁判の継続は訴えられたひとに不当な応訴負担を強いることになる、法律用語でいう「訴権の濫用」として却下された。これで一連の関連訴訟はすべて否定されたわけだが、今度の判決は訴え時の記載事項が反論されるたびにつぎつぎと変更されたこと、ならびに社会常識にそぐわない主張があまりにも多く、憲法三二条の保障する人格権としての裁判を受ける権利、提訴する権利を貴重なものとしながらも、今度のようなデタラメな訴えを取り上げ審理することじたい、現行司法制度の悪用に裁判所が加担することになるとまで示唆する、判例史に残るものとなった。
この事件は元創価学会北海道副総合婦人部長・信平信子氏が創価学会名誉会長・池田大作氏に数回にわたってレイプされたと訴え、創価学会を批判する政党や宗教団体の機関誌などに登場した後、池田氏を被告として本人とその夫・醇吉氏が計七四六九万円の損害賠償請求という民事訴訟裁判を起こしたことにかかわるものである。
私には提訴の事実認定を軽々にはできないが、裁判所が提訴そのものを訴権の濫用だと判断し、原告の手記や取材内容についても「センセーショナル」ということばでその過激さを示唆していることにも注目しておきたい。
〈続く〉