電子書籍が普及して久しいが、基本的には紙での読み方のスタイルが踏襲されているものが多い中で、独自の読み方のスタイルを確立しつつあるのが「Webtoon(ウェブトゥーン)」だ。これは韓国が発祥のデジタルコミックで、日本や台湾、タイなどのアジア各国や、北米にも人気が広がっているという。スマホ向けに縦スクロールで読み進めていく「縦読みスタイル」が最大の特徴であり、日本でも「LINEマンガ」をはじめ、「ピッコマ」など複数のポータルが展開されている。
とはいえ、日本人にとっては読み慣れないせいか、まだまだ一般的とは言い難いのが現状だ。ところが、世界市場を見るとうかうかしていられない現状が見えてくる。
LINEマンガとピッコマが世界のWebtoon市場を席捲?
画像は(Amazon.co.jp)より引用
日本でも社会現象になったネットフリックス発のドラマ「梨泰院クラス」は、元をたどれば韓国のカカオエンターテイメントの電子コミックサービス・ピッコマから配信されたオリジナルWebtoonが原作。おなじくネットフリックスで配信された「Sweet Home ー俺と世界の絶望ー」の原作は、韓国のネイバーが提供するLINEマンガから生まれている。
ネットフリックスのように過激表現にも寛容なストリーミングサービスとWebtoonは相性が良いことを象徴する出来事で、ネイバーとカカオは世界市場をけん引する電子コミックサービスを提供している企業といえるだろう。
利用者数で見ると、「LINEマンガ(日本)」を包括しているネイバーの「WEBTOON worldwide service」の月間利用者数(MAU)は7,200万人。カカオは利用者数を非公表としているが、2020年にピッコマがApp Store(ブックカテゴリ)とGoogle Play(コミックカテゴリ)の合計で、グローバルで年間セールス1位を獲得したと発表。ニューヨークでの上場の噂もあり、その企業評価額は20兆ウォン(約1.8兆円)を超えるかもとのこと。もはやアジアの一企業ではない、世界的企業ともいえるのだ。
中国企業発の漫画版TikTokは、マンガの第三の楽しみ方を提案
Webtoonが世界でヒットしているのにはそれなりに理由がある。まず、従来の漫画単行本のような「出版」前提の作品作りではなく、「モバイル配信」が前提として制作されているため、国による「マンガの読み方の違い」がない。紙ベースだと、日本なら右上から左下、アメリカなら左上から右下と読み進めていく、という前提でマンガが作られるため、翻訳したり外国人が読んだりしたときに、どうしても何かしらの不具合が生じる。その点、世界共通の縦スクロール前提で作品作りが行われれば問題が起きないというわけだ。ネイバーとカカオはグローバルなM&Aを活発化させ、世界中に事業規模を拡大させている。
独自のWebtoonを武器に、発展を続けているのが中国の電子コミックサービス「快看(クワイカン)」だ。中国メディア「AI Caijing(財経)」の報道によると、「快看」の現在の登録ユーザー数は3億4,000万人。月間アクティブユーザー数は5,000万人。2021年8月には2億4,000万ドル(約263億円)の資金調達を完了したと発表されており、ネイバーとカカオに対抗する第三勢力となりつつある。
この資金は何に使われるのかというと、「漫劇(マンチュイ)」と呼ばれる新しい映像コンテンツに力を入れるという。これはいわゆる「動くマンガ」で、マンガに動きやキャラクターボイスをつけた“マンガ以上アニメ未満”というコンテンツ。いわば漫画版TikTokといっていいだろう。すでに多くの作品が配信されており、今後もますます発展しそうな勢いを見せつけている。
日本にも数多くのマンガアプリが存在するが、その中で縦読み形式のマンガはまだ少数派というのが現実だ。もしもこれから「マンガは縦に読むもの」という認識が世界に広まっていった場合、日本のお家芸といえる「マンガ」が、いつの間にか隣国にとられて変容してしまった、なんてことになる可能性も……。そうならないように祈りながら、横でも縦でもマンガを楽しめる感覚を養っていきたい。
参考元:日本人だけが知らない、中韓が漫画市場の覇権を獲る日 ── 「漫画版TikTok」は264億円調達【Business Insider Japan】
※サムネイル画像(Image:bagussatria / Shutterstock.com)