🍁上川地方雑談

クロンシタットの反乱の最中、共産党は一九二一年三月八日からモスクワで第十回党大会を開いた。レーニンは、ソビエト政府にとって農民の支持が不可欠な段階になっていることを痛感していた。もともとロシア共産党はマルクス主義政党として、基本的には「ブルジョアジーに対立しているすべての階級の中で、プロレタリアートだけが真に革命的な階級である。農民は革命的でなく保守的である」という見解をとっているプロレタリアートの党であり、しかも”戦時共産主義”が農民を政府に対する露骨な敵対者にしてしまっていたのである。農民を”プロレタリアートの党”にひきつけるためには、従来の基本路線から多少逸脱しても、農民に譲歩することが必要であった。
　かくてネップへの大転換が提案されたのである。論議の末、採択された内容は次のようなものであった。農民に土地保有の安全を保障し、穀物の微発制を廃止して”食料税”を導入し、一定の税負担ののちに農民の手元に残された穀物を、自由に販売する権利を農民に与え、これにともなって私的商業、小企業の開設を認める。要するにそれは大規模工業や対外貿易を国家が掌握しつつ、狭い限界内で資本主義的な営業を認めるものであり、経済的な譲歩であった。
　一九一四年以来、七年間の戦争と内乱によってロシア経済は破局的状態を迎えていた。一九二一年の生産は、戦前の水準にくらべて工業では13％、農業でも半分以下に落ち込んでいた。新政策によって農民に新鮮な刺激を与えて食料の供給を増大させ、それによって、食料不足で農村に流出した都市の労働者を都市にひきもどし、工業生産をも増大させるということがネップの一つの狙いであったといわれる。そして都市と農村との商品交換を通じて国民経済を復興し、労働者＝農民の同盟を強化するということがネップの目標であると宣伝されたのであった。
　しかしネップは、まずなによりも、ソビエト政権の戦略的な退却であった。レーニン自身「これから生じるのは、ある程度の..........自由な商業にもとづく、小ブルジョアジーと資本主義の復活である。.............これに目をふさぐことは滑稽である」と述べていた。また世界革命の見通しが依然として暗かった一年後には次のようにも述べていた。「我々には農民を助ける力があるということを.......証明してみせること、これが我々の目的である。」