📖 創作･携帯小説

短大に入って最初の夏。
今日は町外れの神社の夏祭り。
出店が並び、夜には川向うから花火が上がる。
大学や就職で街を出ていた友達も返って来る。
そして、あの人も……

橋を渡って川上の方へ少し行くと、夕闇の中に提灯の灯りが並んでいた。
灯りの下をザワザワと人の影が動き回っている。
神社の鳥居を潜る頃には、少し心拍数が上がっていた。


境内の奥、古い井戸の脇に「お七堂」と呼ばれる小さな祠が在る。
昔、お七と言う娘が佐吉と言う若者と恋仲になった。
だが二人の仲は許されず、駆け落ちを決意する。
約束の晩、佐吉は現れなかった。
お七は怨みを残し、井戸に身を投じた。
人々はお七を憐れみ、祠を建ててその魂を慰めたのだと言う。


下駄の鼻緒が痛い、それに、浴衣の帯がキツイのか少し息苦しい。
息苦しいのは別の理由かも知れないけど……

人込みを外れると夜風が気持ち良かった。少し休憩。
時間はまだ少し早い。あの人は、まだ来ない。

……来やしないよ。
——えっ？
振り返っても暗がりが在るだけだった。

灯りの下へ戻ると、懐かしい顔の一団を見つけた。
あの人の顔も有る。髪が少し長くなっているけど、何にも変わって無い。
私は思わず駆け出して、足を止めた。

——誰？
あの人の、隣りの女の人は誰？
握られた二人の手が、近づく事を許さない。
あの人が笑ってる、私の知らない笑顔で。

……ほうらご覧な。
頭の芯がズキリと痛み、意識が遠くなった。

気が付いた時、私は数人に押さえつけられていた。
肘や肩に砂利が食い込んで痛かった。

目の前に私のカンザシが落ちている。
カンザシは花飾りが潰れ、血に濡れていた。
そしてカンザシの先には、あの人が横たわっていた……


有りがちですが、イカがでしょう？

さすがです‼ありがとぉーございます❗浴衣のまま捕まって取り調べみたいな暗い感じのも、いいかなって思って。