🏦 経済

ああ井伊

吉野家「大量閉店」の深層…いま本当に起きている「意外なこと」

8/22(土) 8:01配信
1
現代ビジネス
数字に惑わされていないか

　先月29日、吉野家ホールディングス(以下、吉野家HD)は国内外3300店舗のうち最大150店舗の閉店を発表した。内訳としては吉野家国内約40店舗、はなまるうどん、京樽など最大100店舗など、2021年2月までに閉店するという内容だ。そして2021年2月期決算予想が純損益90億円赤字との発表もあった。

【写真】ココイチの「客離れ」が止まらない、“値上げ”よりも致命的な原因

　新型コロナウイルスの影響を受けて、ファミレス業態、居酒屋業態の企業各社による大量閉店の発表は、早いところでは4月下旬頃からなされていた。そんな中、7月下旬になっての吉野家ホールディングスの発表は、やや遅く感じるタイミングだ。

　なぜ、このタイミングで同社は大量閉店を発表するに至ったのか。その背景には、同社のメインブランド「吉野家」業態が影響していることが所以となる。

　緊急事態宣言が出た4〜5月、多くの外食企業が臨時休業・時短営業を余儀なくされる中、吉野家はテイクアウトなどで比較的堅調に推移していた。ただ、緊急事態宣言解除後、徐々にその他ブランドが売り上げを戻し始めたのと反比例する形で、吉野家は売り上げを落とし始めていた。

　このように、多くの外食企業とは売り上げの動きが異なったから、戦略構築と今後に向けた経営判断がこの時期にずれ込み、結果、7月下旬での大量閉店発表に至ったと考えられる。

　さて、巷には今回の吉野家HDの大量閉店について、事態の深刻さばかりが報じられる傾向にあるようだ。確かに、100店舗を越える閉店、とあれば数字のインパクトはやはり強く感じざるをえない。

　だが、冷静に見ると、今回の閉店店舗数は同社全体の5％弱に過ぎない。確かに、業績は厳しいながらも、他のファミレスや居酒屋業態企業と比べれば、まだ危機度合いは低く、同社が出来る限り閉店店舗数を抑えながら業績回復を目指していることが読み取れる。

　そこで今回は改めて、吉野家HDの大量閉店をどう捉えるべきか、考えてみたい。

コロナ前のファインプレー

Photo by iStock

　実は、このコロナ禍が起こる直前、吉野家HDは経営面で“ファインプレー”と言える動きを見せていた。

　2019年12月26日、吉野家HD子会社のアークミール社の全株式が安楽亭社に売却されている。当時このニュースを耳にした時に筆者は、双方にとって非常に良いM＆Aだと感じた。

　このアークミールという会社、あまり聞き覚えはないかもしれないが、手掛けているブランドはご存知だろう。「ステーキのどん」、「しゃぶしゃぶどん亭」、「フォルクス」がそうだ。

　同社はかねてより経営不振に苦しんでいたが、2008年に吉野家ホールディングスに救いの手を差し伸べられた形でグループ傘下に入った。だが、それから12年あまり、率直に言えば利益に貢献することができずにいた。事実、2017年からの直近3年だけでも、当期純利益で合計約25億円の赤字を計上している。

　吉野家HDにとって“お荷物”であり続けていたアークミール。そんな同社を焼肉チェーン大手の安楽亭が買収したのである。安楽亭としても食材、オペレーションなどの相乗効果も見込んだ上で「これは買いだ」と判断、吉野家HDとしては長年の肩の荷がおりたというわけだ。

　そして、アークミール売却後からわずか3ヵ月でコロナ禍へと突入した。もしまだ赤字を垂れ流していたアークミールがグループ会社であったならば……。吉野家HD経営陣も脂汗が止まらないはずだ。

　今回の吉野家HDの大量閉店を語る上でまず、2019年末のアークミール売却という“超ファインプレー”があったことは、まず抑えておきたい。


　コロナ禍前にアークミール売却をしたことによって、最悪のケースは免れた吉野家HD。とはいえ、同社にはまだ“悩みのタネ”が存在している。

　件の大量閉店発表について、その内訳を見ると、メインブランドの吉野家が約40店舗、そしてはなまるうどん、京樽といった他ブランドが最大100店舗閉店となっている。

　このうち、はなまるうどんはコロナの影響は大きいものの総じて順調なのだが、問題なのが、持ち帰り寿司の「京樽」、寿司店の「海鮮三崎港」「すし三崎丸」を運営している京樽だ。

　ポイントは、「100店舗閉店」とひっくるめて発表された点にある。ここに、吉野家HDが京樽の閉店・縮小・整理に対して大声を上げられない社風と歴史が明確に現れている。

吉野家は1980年に会社更生法、いわゆる倒産を経験し、その経験を活かした経営を相当意識してきた。そして京樽についても会社更生法が適用され、その後グループ傘下に入った経緯がある。

　そうした古くからの関係性も含め、京樽の売却、整理に関して、吉野家HDはこれまで強く動けていなかった。しかし、京樽はすでに前述のアークミール同様、グループシナジーも小さく、未来も見えない、“お荷物”になってしまっているのだ。

じっと待っていたら…

画像：吉野家

　ここまで見ると、吉野家HDの大量閉店は悲観的に捉えるよりも、過去に固執せず未来を勝ち取るための積極策として前向きに捉えるべきかもしれない。

　今回のコロナ禍においても、当初は「嵐はじっと大人しく去るのを待つ」という考えの保守的な外食企業の経営者も多かった。しかし、このたった3ヵ月でまともな経営者は「じっと待つ=倒産」と気付いてきたようだ。

　その点、吉野家HDはこれだけの大企業にもかかわらず、コロナ長期戦に備えた新しい形への模索・チャレンジを行う速度は評価に値すべきところだ。下記に7月末の大量閉店発表時に同社が提案した注目すべきチャレンジ施策例を取り上げてみたい。

　・吉野家アプリの改良

　スマホアプリからの店舗検索、メニュー検索、注文、決済とファストフード業態がこのコロナ禍で一気に成長した分野。同社も頻繁にアップデートを行い、利便性高く使い勝手も良くなってきている。

　・デリバリー専門店舗の出店

　無客席、大きな目立つ看板なし、小さなドアのみ、綺麗な店舗内装なしのデリバリー専門店舗を出店。また、居抜物件でも出店でき、初期投資や賃料の大幅削減に期待ができる今注目の「ゴーストレストラン」型店舗もすでに出店をしている。

　このコロナ禍においては、業種業態かかわらず解決の見えない赤字店舗は即閉店させ、財務体質を強化することが生き残るための第一歩となる。そして景気回復までの長期化を覚悟の上での戦略も重要となる。

　そのために各社様々な取り組みを発表しているが、今回取り上げた吉野家HDの“守りと攻め”は大企業でありながら、柔軟な力を感じる。保守的な日本企業には学びが多いと筆者は感じてならない。

永田 雅乙（フードビジネスコンサルタント）

1234

いいと思う。

♉☮