🍡 八潮市雑談

世界の女性のまつげ、八潮の町工場が上げている
朝日新聞　2011年5月5日

　埼玉県八潮市の小さな町工場で生まれるビューラーが、世界の女性のまつげを上げる。重さ約２０グラムの手のひらサイズ。何でもないように見える化粧用品には、工夫が詰め込まれている。

　八潮市南後谷にある沼澤製作所。ガチャン、ガチャンと、長さ２６センチ、太さ２ミリほどの鉄の棒をプレスする機械の音が響く。３０の工程を経てビューラーの形状ができていき、女性たちがまつげを挟む部分に細いゴムを取り付けていく。

　従業員３５人で年間に製造する１８０万本は、資生堂、シュウウエムラといった化粧品メーカー、シャネル、ヴィヴィアンウエストウッドなど海外高級ブランドの商品として、国内外の店頭に並ぶ。

　沼澤明夫社長（６０）の父親が１９５０年代、製作所を立ち上げた。当時は金型製造の下請けが中心。７５年にビューラーの専門会社となった。

　「何もしなくても売れ続ける化け物商品」

　流行の移り変わりが激しい化粧品業界で、同年の発売から３０年間売れ続けた資生堂のビューラーは関係者からこう呼ばれる。

　資生堂が約４千人の日本人女性のまぶたの形を調査し、つくったのが沼澤さんだ。発売当初の生産数は月２万本。２００６年ごろには月１０万本になった。それでも、「技術に限界はない。ものづくりにおいては、常に１番じゃなきゃだめなんだ」と挑戦心を忘れない。

　０７年からは「化け物商品」に工夫を凝らした、資生堂の新ブランド「マキアージュ」のビューラーも手掛ける。中心部よりも力の伝わりにくい目頭や目尻のまつげが「よりしっかりとあがるように」と、まぶたにあたる弓状のカーブを１ミリ外側に押し出した。支柱に０．６ミリの穴を開けて弓状の部品の端を埋め込んで、製品の強度も増した。

　「シンプルな形の中にいろいろな工夫が詰まっている」と、沼澤さんは胸を張る。

　福島第一原発の事故のため、海外から放射線量の点検を求められることもあったが、取引は問題なく続いている。

　旅先で自社の製品に出合ってきたが、「世界にはまだまだ化粧品メーカーがある。もっと多くの一流企業と仕事をしていきたい」。

　八潮発の製品をさらに世界に流通させたいという。（藤田絢子）