📖 創作･携帯小説

ザンスカール戦争から7年ほど経ったある冬の日、カッサレリアの寒村リェーヴァで暮らしていたエリシャ•クランスキーはとある噂を聞いた。首都のウーイッグでカテジナという女性が淫売の罪でギロチンにかけられるそうだ。エリシャは、エリシャはかつての恋人オデロ•ヘンリークを思い出した。彼は最後の出撃の前に、彼女の頬にそっとキスをして、二度と戻らなかった。トマーシュ•マサリクの話によると、カテジナ•ルースという敵パイロットに撃墜されたそうだ。彼が宙に散った時、エリシャは彼の形見のクジラのペンダントを握りしめて慟哭した。あれから7年が経ち、数人の男とも付き合ったけど、初恋の人オデロの勇敢さは、今もエリシャの心に深く刻まれていた。
『ただいま』
『お帰りなさい。あら、ウォレン君も一緒なのね』
『こんばんは、義姉さん』
帰ってきたのは、妹のマルチナとウォレン•トレイスだった。あの苛烈なザンスカール戦争でオデロと共に戦った彼も、今やウーイッグの工科大学に通う好青年だ。戦時中はマルチナとの恋仲は進展しなかったものの、戦後にザンスカールの残党から村を守る中で2人に絆が芽生えたようだった。彼が、義姉さんと呼んだのは、来月2人は結婚するためだった。
『お姉ちゃん、ウォレンったら、ウッソたちにもう式の招待状出したのよ』
『だって、ウッソは出不精だから、早く伝えないと来ないと思ったんだよ』
ウォレンは顔をしかめてこう答えた。ウッソは稀代のニュータイプとして、またシャクティもマリア女王の娘として戦後3年ほど連邦の監視下に置かれていた。軟禁生活に嫌気が差した2人は、ノヴィルカという開拓村に転居し農業を営んでいた。
『ウォレン、トマーシュたちには連絡した？』
『しまった！トマーシュに電子メールを出し忘れていたよ』
オデロと共にシュラク隊に所属していたトマーシュは、弟のカレルとともに衛星ハイランドの整備士として働いていた。一度は地球に降りたものの、父の仕事の都合で再び宇宙へ飛び立った。
『でもウーイッグのマーベットさんとスージィにはちゃんと手紙を送ったぜ』
『だといいんだけど。ウォレンは昔から忘れっぽいから心配だわ』
シュラク隊で生き抜いたマーベット•フィンガーは、オリファー隊長の遺児ジュンコを育てるため戦災処理委員会に勤めていた。スージィはウーイッグ女学校に昨年入学したばかりだ。

エリシャも結婚式に招待されていた。妹の結婚は喜ばしいことであると言い聞かせても、オデロの友人が義弟になることに釈然としない辛さがあった。これから毎日ウォレンを見るたびに、もう帰ってこないオデロを思い出して陰惨な一日を過ごさなければならないのだ。カテジナという女さえいなければと彼女は心底呪った。その時、ウォレンが
『今度の金曜日、ウーイッグで公開処刑が行われるみたいだけど、マーサも一緒に行かない?』
『やめなさいよ、ザンスカールみたいに趣味悪いわよ』
エリシャはまさかと思いつつも、古い日記の文字をなぞるようにそっと尋ねた。
『ウォレン、処刑者の名前って、あのカテジナじゃないの？』
ウォレンは一瞬顔を曇らせ、神妙にこう答えた。
『そうですよ････オデロを殺したあの女････カテジナ•ルースですよ』
『やっぱりそうなのね････』
エリシャの頬を一筋の涙が伝った。マルチナは、心配そうに姉の顔を見つめた。エリシャは7年間のうのうと生き続けたカテジナが憎かった。できれば、オデロの仇は自分で打ち取りたかった。
『すいません、義姉さん。嫌なこと思いださせて』
『いいのよ、それより私もその公開処刑に行ってみたいの』
『お姉ちゃん、それはダメよ。あんな雌豚の最後なんて汚いわ』
マルチナは、姉の突然の思いつきに驚いた様子だった』
『いいえ、あの淫売婦に会えば、オデロの最期の様子が何か聞き出せるかも知れないわ』
エリシャは、カテジナからなぜオデロを殺したのか、そして懺悔の言葉を聞くまでは殺すわけにはいかなかった。
『だったら、私も行くわ。あんな×××には石を投げつけてやらなくちゃ』
『それじゃ、三人でウーイッグに行きましょう。車は僕が運転しますよ』
『助かるわ、ウォレン』
エリシャの心は、今復讐の炎に燃えていた。