ウッドベース予定本数完売しました。
フロアタムのみ、8個 ご用意しております。
[ほとばしるJazz men]
「今日は、どうやってここまで?」
「広島から、ホンダのモンキーに乗ってきました」
[本橋サトシ]
荒らしには通報するんじゃねーのか? 関係者モロバレ
[匿名さん]
カジちゃんと、飲みに行きてぇなぁ。党派は違うけど。
[漆原清]
その日、あさひが丘中学校では卒業式が行われていた。
あさひが丘中学校には、他校の生徒としょっちゅうケンカする、ヤンチャで名の通った吾妻マサルという不良坊主がいた。
[卒業の日]
マサルは体育教師の梶山に目を付けられていて、体育館裏の倉庫でタバコを吸っているのを見つけられてはよく怒られていた。冬場にはほとんど人が来ないプールの更衣室でタバコを吸っていたときも、タバコの匂いを嗅ぎ付けてきた梶山に見つかり、よくビンタを食らったりした。鼻血が出るほどの激しいビンタを食らうたびに「いつか殺してやる」とマサルは思っていた。
[卒業の日]
卒業の日、マサルにはやらなければならないことが二つあった。
その一つは、幼稚園の頃からの幼馴染みの畑小勇馬と決着をつけることである。
[卒業の日]
小勇馬とは、小さい頃から何度となく殴り合いのケンカをしてきた。学校でも、すれ違うたびに「やるか、この!」とケンカになる。
小勇馬は、春からは父親の仕事の都合でペルーに行くことになっていた。だからマサルは、ペルーに行かれる前に小勇馬を徹底的に叩きのめしておかなければならなかった。自分のほうが強いということを証明するために。
[卒業の日]
「卒業証書、授与!」
三月とはいえまだ肌寒い体育館で、卒業式は厳かに進行していた。
マサルは、問題ばかり起こしてきた中学生活を思い出しながら、万感の思いで卒業証書を受け取った。
「卒業生、退場!」
在校生のブラスバンド部が演奏する「威風堂々」に乗って卒業生が退場し、卒業式は終わった。
[卒業の日]
マサルは、体育館わわ出るとすぐにクラスの列から抜け出した。そして隣のクラスの列に行き、小勇馬に声をかけた。
「ちょっと来いよ!」
ふたりは、今出てきたばかりの体育館の裏に向かった。
「今日こそ決着をつけるぞ!」とマサルが言う。
小勇馬は「いいぜ」と答える。
その言葉をきっかけに、マサルは先制のキックをかました。裏腿に蹴りを入れられて倒れ込んだ小勇馬は「不意打ちは汚いぞ!」と言う。
さらにマサルは倒れている小勇馬の顔めがけて跳んだ。「顔つぶし」と呼んでいる技である。
小勇馬はそれを間一髪でよけ、マサルの右足を掴み取り、一八〇度回転させた。するとマサルはバランスを失い、地面に叩き付けられた。
馬乗り姿勢になった小勇馬が、凄まじいスピードでマサルの顔に何発もパンチを入れる。
マサルの顔がみるみるうちに腫れ上がっていく。「おたふく」と呼ばれる状態である。
マサルは傍らにあっあ大きな石を掴み、渾身の力を振り絞って小勇馬の頭部に投げつけた。
「んぎゃ」と小勇馬はのけぞり、額がぱっくりと割れ、血が噴き出した。
[卒業の日]
幼い頃から何度もケンカをしてきたふたりは、お互いの力を知り尽くしていた。ふたりの力はほぼ互角で、殴り合いは続くがどちらも「参った」とは言わず、決着がつかない。
終わりそうもない殴り合いを続けているうちに、マサルは思った。
「このままだと、今日も決着がつかないな」
[卒業の日]
マサルは殴るのをやめ、ボタンも全部外れてボロボロになった制服を脱ぎ捨てTシャツ一枚になった。
[卒業の日]
「ちょっと来い!」
小勇馬を連れて、いつもタバコを吸ってビンタを食らっていたプールサイドに向かった。プールには、夏から入れ替えられてない水が張られたままだ。
「二十五メートル、どっちが先に泳げるか競争だ。これで決着をつけるぞ!」
[卒業の日]
小勇馬は何も言わず学生服を脱ぎ捨てた。
ふたりはプールに飛び込み、クロールで競争を始めた。濁った水をかき分け、ふたりは全力で泳ぐ。泳いだ。
[卒業の日]
二十五メートル先のゴールに先に手をつけたのは、小勇馬だった。
プールから上がって悔しがっていたマサルは、小勇馬の顔を見た。最初はプールでずぶ濡れになっていまので気付かなかったが、小勇馬は涙を流していた。
[卒業の日]
「お前、ないてるのか?」
「…オレはペルーに行くけど、あさひが丘はお前に任せた」
そう言い残して、小勇馬は去っていった。最後の決着に負けたマサルだったが、不思議と悔いは残らなかった。
[卒業の日]
ふたりの決着がつく頃には、他の生徒たちはすでに下校していた。
夕暮れの日差しに照らされ静まり返った学び舎で、ずぶ濡れになった制服からジャージに着替えたマサルは、やらなければならないもう一つのことのために、職員室に向かった。
[卒業の日]
もう一つのこととは、体育教師の梶山に会うことだった。
職員室のドアを開けたマサルは、梶山先生の机に歩み寄り
「先生!」
と声をかけた。
ジャージ姿のマサルを見た梶山は、間髪入れずマサルにビンタを往復四発お見舞いし、大声で怒鳴り散らした。
「貴様!卒業式にジャージとはなんたることだ!」
[卒業の日]
マサルの鼻から真っ赤な血がしたたり落ちる。
梶山から怒られるたび、生意気な目つきで睨み返してきたマサルだが、今日は睨み返さない。
マサルはいつになく穏やかな面持ちで言った。
「梶山先生、今まで迷惑をかけてすいませんでした」
一瞬沈黙した梶山だったが、すぐに顔をほころばせて一言かけた。
「卒業おめでとう」
[卒業の日]
職員室を出て、渡り廊下をひたひたと歩いていく。誰もいないひっそりとした校内。マサルは、鼻血をすすりながら、なんともいえない寂しさをおぼえ、ちょっとだけ泣いた。
[卒業の日]
覗いてみると、英語教師のモトキ先生がエロビデオを爆音で上映していた。
「あっ」とマサルが声を上げた瞬間、モトキ先生は口から煙をもくもくと吐き出した。
煙の中から真っ黄色のキツネが飛び出し、ものすごい速さで走り去った。
[卒業の日]