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神戸市兵庫区の新開地で半世紀近く親しまれ、昨春に閉店した「カフェレストラン コトブキ」が今年4月、前の店があった場所のすぐ近くで、規模を縮小して再オープンした。店主の会澤英子さん(71)は閉店後、二人三脚で店を切り盛りしてきた夫を亡くし、喪失感から自律神経失調症と診断された。だが夫を担当した看護師からの手紙で奮い立ち、店を再び開こうと決意。英子さんは「肩肘張らず、地域の皆さんが気軽に来られる居場所をつくりたい」と話す。
英子さんは1973年、夫の進さんと新開地に店を開いた。当時、店の前の通りは港湾関係の会社に勤める労働者らでにぎわい、朝6時から夜の8時まで大忙し。進さんは仕込みのため、深夜まで厨房に立つこともあったという。
夫婦二人三脚で歩んできたが、昨年2月、進さんに膵臓がんが見つかり、余命3カ月の宣告を受けた。慌ただしく店を閉め、英子さんは緩和ケア病棟に入院する進さんを介護。同10月に70歳で最期をみとった。
「迷惑を掛けまいと最後まで周囲を気遣う、素晴らしい夫だった。何で先に逝っちゃったのと毎日毎日、生きている自分を責めるようになった」と英子さん。全ての片付けが終わった後、「私はどうなるんだろう」と不安や喪失感から眠れない状態が続き、自律神経失調症の診断を受けた。
そんな時、進さんを担当した女性看護師から手紙が届いた。
「生前、進さんは『妻は気が強そうやけど、独りになると弱いかも。心配』と言ってらっしゃった。気持ちを落とされないように」
手紙を読んだ英子さんは「夫は無口だったけれど、病床で『お母ちゃんに涙は似合わん』と言っていた。もう一度、店に立ち、明るい自分に戻りたい」と決意。なじみの新開地で店探しを始め、妹の寺島好子さん(70)と一緒に開店にこぎ着けた。
新しい店の場所は新開地劇場の正面玄関前で、名前は「カフェ・キッチン コトブキ」に。テーブルとカウンターの18席と、前店の4分の1の大きさだが、ランチタイムには常連客が次々と訪れ、連日にぎわっている。英子さんは「私のように、独りきりになると生活に張りがなくなる人もいる。これからも、人の心に寄り添える店にしていきたい」と思う。