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■神話に登場する名前を拝借するのは兵器命名の定番
人類が歴史の中で紡いできた神話には、圧倒的な力を誇る神や恐るべき力を秘めた武器がたくさん登場します。

神々や伝説の武器は自然や宇宙を神格化した存在ですから、人間の力など及びません。

それは文明が進んだ現代でも同様です。

だからこそ軍人は、命を預ける相棒である兵器に神話から引用した名前をつけて加護を願います。

兵器の名前はどんなものを開発しているか隠すためのコードネームという面もありますが、弱そうなのよりは断然、強そうなほうがいいですよね。

日本では明治天皇が兵器に人名をつけることを嫌ったといわれ、その流れを汲んで神の固有名詞を名前に持つ兵器は少数です。

しかし海外では、ギリシャ神話の半神半人の英雄・ヘラクレスを英語発音した輸送機・ハーキュリーズや、ローマ神話の火の神にちなんだガトリング砲・バルカンなど多くの例があります。

今回はその中でも大きな戦果を上げたミサイルを3つ、ご紹介します。

■ロケット開発の先駆者が手がけた「ジュピター」
ジュピターはローマ神話の最高神。

天空や気象を司る神で、雷を自在に操ります。

嵐や大雨などに翻弄された古代の人々が、ジュピターを最高神として畏怖したのは当然といえるでしょう。

1954年、このジュピターの名を冠したミサイルがアメリカで開発されました。

これがアメリカ初の中距離弾道ミサイルといわれます。

中心となって開発したヴェルナー・フォン・ブラウン博士は、ロケット技術開発の父といえる高名な工学者です。

ジュピターはソビエト連邦（当時）を狙うため、イタリアとトルコに配備されました。

結局ソ連との戦いには使用されませんでしたが、核開発が明るみに出たキューバに対してアメリカとソ連が対立姿勢を取ったキューバ危機で、キューバに核ミサイルを撤去させる交渉の重要な役割を担いました。

キューバの核ミサイル・R12を撤去すればアメリカはジュピターを撤去するという交換条件を出して、世界的な核戦争の危機を回避したのです。

■艦対艦の戦いで勝利を収めた「ガブリエル」
ガブリエルはキリスト教の三大天使（ユダヤ教では四大天使）に数えられる大天使です。

神の言葉を伝えるメッセンジャーになることが多く、イエス・キリストの母であるマリアに受胎告知をしたのもこのガブリエルです。

1960年代のイスラエルで開発されたガブリエルの名を冠するミサイルは、戦艦に搭載される艦対艦タイプです。

艦対艦ミサイルを配備するようになった敵対国・エジプトに対抗するため開発が進み、1967年にイスラエル海軍がエジプト海軍に敗れるとさらに完成が急がれました。

そして1969年に実射試験をクリアし、1973年のラタキア沖海戦で実戦デビュー。

エジプト海軍の戦艦を見事撃沈したのです。

これが世界初の艦対艦ミサイル同士での交戦といわれます。

1981年にはイスラエルの技術協力を得た台湾が、ガブリエルをモデルにした艦対艦ミサイル・雄風1型の開発に成功しました。

雄風は現在3型まで開発されており、さらなる進化を遂げています。

■緻密な一点集中攻撃を実現した「エクスカリバー」
エクスカリバーは、現在のイギリスに当たるブリテン島を治めたという伝説の王・アーサーが愛用した魔法の剣です。

誰にも引き抜けない石に刺さっていましたが、アーサーだけは抜くことができました。

これこそがブリテン島の正当な継承者の証なのです。

この伝説の剣の名前を冠するミサイルは比較的新しく、1992年からアメリカとスウェーデンの軍事企業が共同で開発しました。

GPS搭載の誘導砲弾で、目標の上空からほぼ垂直に急降下することにより、精度が高く被害範囲の狭い一点集中攻撃が可能です。
実戦デビューは2007年。

イラクのバグダッド北部で反政府組織の拠点を狙う際に投入されました。

目標から4メートル以内に着弾した割合は92％といわれます。

近年は市民の犠牲や一般施設の巻き添えなどに強い反発があるため、国際社会からの孤立を防ぐためにもエクスカリバーのような精密兵器はさらに開発されていくでしょう。