これに答えてくれたのが、ある禅寺のお坊さんだった。曰く、幸福とは「人の役に立ち、人に必要とされること」。この幸せとは、施設では決して得られず、働くことによってのみ得られるものだと。大山さんは目から鱗が落ちる思いがした。
それなら、そういう場を提供することこそ、会社にできることなのではないか。企業の存在価値であり社会的使命なのではないか。
これ以来、50年以上、日本理化学工業は積極的に障害者を雇用し続けてきた。
「徹底的に障害者雇用にこだわる」
しかし、この50年間の歩みは平坦なものではなかった。「私たちが面倒をみますよ」と言ってくれた社員ばかりのうちは良かったが、やがて後から入ってきた人たちは不満が募った。「自分たちの方が仕事をしているのに、なぜ給料が変わらないのか」と訴えるようになった。
また社員旅行や忘年会をしても、健常者の社員は、障害者の世話をしなければならないと思うと、存分に楽しむことができない。障害者の方も普段と違うリズムの時間を過ごさなければならない。
大山社長は、健常者と障害者のどちらに軸足をおいた経営をするのか、はっきりさせなければならない、と思った。