私には霊感が無い
霊の存在など元から信じて無いし、幽霊などこの世に居る訳は無いのだ
例えば今この場所で
その昔にドンナに無残な死に方をした人が居ようと、ドレだけ怨みを抱いて自ら命を絶った人が居ようと、ソレは私とは何の関係も無い事で
仮に幽霊が居たとして
私とは縁もゆかりも無い、ドコの誰でいつ死んだのかも解らない人の幽霊に「うらめしや…」と出て来られても
コレはもう迷惑なダケだし、只のイヤガラセでしか無いのだ
それに、だ
死んでもなお留まる程の怨念、と言うのか残念と言うのか……
そう言うモノが有ったとして、ソレを私に訴えた所で何になると言うのだ?
私に出来る事といえば「なんまんだ…」と念仏の真似事でも唱えるのが関の山で
坊さんの知り合いでも居ればチャンとした御経を上げてもらう事も出来るが、残念ながらそんな知り合いも居ない
だから……
私ンとこへ出て来ても何の意味も無いと思うんだけど……
窓の外にボウッと浮かぶモノは、確かに人の上半身だった
ココはアパートの二階
窓の下は駐車場の筈だ
カーテンを閉めようとして気がついたのだ
生きた人では無いと言う事はすぐに解ったが、幽霊などは居ない訳で
なら、何だ?
目が合ってしまった
私はソイツと目が合ったまま、静かにカーテンを閉めた
ともあれ、見えなきゃ居ないのと同じ事だし、何かの見間違いに決っている
が、気になる……
恐る恐るカーテンの隙間から覗いてみた
ギョッとした。ソイツは、すぐ目と鼻の先まで来ていた
慌てて窓のロックを確認してカーテンをシッカリと閉め直した
有り得ない、こんな事は有り得ない……
その時
コツコツと窓ガラスを叩く音がした
身体が凍りつき、思考が止まった
コツコツ……コツコツ…