モロッコの辰４
こうなるとさすがの塚越の辰も、圧倒的にふりであった。
「バシーン！」米兵にとり囲まれて、アチャコが再びふっ飛んだ。
「カモン」倒れたアチャコを米兵が挑発する。
「ガチャーン」テーブルや椅子が倒れ、ビールやグラスが割れて床に散乱する。
「キャアー！」という女性客の悲鳴。戦う男たちの荒い息づかい。根岸家のだだっ広い店内も混乱をきわめていた。
「毛唐をブッ飛ばせ！」「そこだ！やれ！」といった野次馬の声援も乱れ飛ぶ。
根岸家の入口はもはや野次馬で黒山の人だかりだった。
そのとき人だかりをかきわけて表から入ってきた四、五人の男たちが、この騒ぎを見るや、「オーッ！」と歓声をあげた。
黒人兵だった。黒人兵たちまでが飛び入り参加せんと店へ飛びこんできたのだ。
それを見た塚越たちは、
「こりゃいかん。黒ん坊まで来やがった！」とほとんど絶望的な気持ちになってしまった。
五人対十七、八人という圧倒的な不利な状態に、黒人兵まで相手方に加わったらどうみたって勝ち目はない。
