「神芝居」18「問答」
屋敷の普請が終わって暫くは平穏な毎日が続いてました。
ところがある日、多くの山伏がやって来ました。応対した○野○蔵は一応ミキに取り次ぎ「アイツら何しに来ましたんやろな。何かあったらワイがカタズケますし」と言いながらミキに懐の短刀をチラッと見せました。
風格のある年長の山伏が「あなたが近在で生き神と言われているミキさんですか? 私は熊野で修行する先達の○○坊です。是非とも問答を願いたい」と丁寧に申しました。
ミキは「暫くお待ち下さい」と言いつつ奥の部屋から大層な金を持ってきて「遠路はるばる御苦労様です。あいにく昨夜から高い熱が出てまして折角お越し頂きましたが問答が叶いません」
そして小声で「本日はこれをお納めになってお引き取り下さい」と言いながら他の山伏に気付かれないように○○坊の手に金を握らせました。
金を握らされた○○坊は呆気に取られながらも「それはそれは。どうぞ御自愛下され」と言うと他の山伏に「折角熊野より参ったがミキ殿は熱を出して難儀しておられる。本日は問答は叶わぬ。帰るといたそう」と言いながらミキに目礼して帰っていきました。
ミキの後ろにいた○野○蔵はミキに「何で金を渡しましてん。ミキはんやったらアイツごとき足元にも及びませんがな。イテもうたらエエやないですか」
ミキは「あんたな〜ヤクザやってた割りには人を見る目があらへんなあ。あの○○坊は相当に修行した修験者や。あんなんとマトモに問答したら勝てる訳あらへんがな。ホンマはワテは神や仏の事は全然知らんねん。問答なんてよう出来へん。ほんで金握らして帰ってもらいましたんや」
「損して得取れは金儲けの基本やで。よう覚えときや」
○野○蔵は「やっぱりミキはんは大したお人や」と心の中で呟いていました。