法政大学教授で政治学者の山口二郎氏が、「人文社会系の研究者としては並はずれた額の科学研究費(科研費)を交付されていた」と、今春に話題になった。
16年間連続で科研費を交付され、総額は6億円近いというのだ。
ジャーナリストの櫻井よしこ氏、衆議院議員の杉田水脈氏らが山口氏に批判的な論調で問題提起を行った。
それに対して、山口氏も反論を展開した。
2018年4月29日付の東京新聞に掲載されたコラムには、以下のように記した。
「研究費の採択は、同じ分野の経験豊富な学者が申請書を審査して決定される。交付された補助金は大学の事務局が管理して、各種会計規則に従って」使用されるという。
「研究成果はすべて公開されているので、批判があれば書いたものを読んで具体的にしてほしい」。
産経新聞の記事に対しては、山口氏はTwitterで次のように反論した。
「不公平な審査だと言いたいなら、学術振興会に取材せよ。経理に不正があるというなら所属大学の事務局に取材せよ。コンプライアンスは強化されている」。
このような騒動が巻き起こることを予言していたかのような著作が10年前に刊行されていたとの情報が、当サイトに寄せられた。
京都大学名誉教授の加藤尚武氏が2008年に執筆した、『資源クライシス』(丸善)という書籍だ。
加藤氏は哲学及び倫理学の研究者で、日本哲学会の委員長も務めた人物だ。
同書で加藤氏は、「研究費を配分した後の不正防止」が日本社会では大きな課題であると指摘する。
「非常に多くの研究者は、私的に流用するのでない限り、研究費の他の研究目的への流用は不正だと思っていない。ほとんど私的な流用だと言えるようなすれすれな支出をする人も多い」。
「巨額の研究費が投下されているのに、それに見合った成果が上がっていない。これは日本における研究開発の中心的な問題である」と加藤氏は記す。
「私の実感では、研究費は巨額になればなるほど効率性が悪くなる」というのだ。
そして、同じことが人文社会系にも当てはまるという。
「私自身の経験のなかでも、100万円の予算で、外国語の資料を買って、仲間同士で内容の報告書を作って印刷配布した仕事の方が、500万円で全国の研究者を集めて研究会を開いたことよりも、成果として優れていたというようなことがある。内外の研究者を呼び集めて、年間で1億円ほど使った研究で、成果は実質的にゼロに近いという例もある」。
「学術会議などで雑談をすると『巨額の研究費を支給されているが使い切れないで困っている』という愚痴とも自慢話ともつかない話は、始終登場する。『研究費を使い切るためにへとへとになった』という大物教授の話もよく聞かされる」。
応募時の研究計画書に記された「期待される成果」は見事な内容でも、実際にはほとんど成功しない場合もあるという。
日本では「経費の不正使用や、不適切な使用を防止するという基礎的な作業がまだ軌道にのっていない」。
大学教員が同僚の研究の指導や監視に専念する「プログラム・オフィサー」という制度がアメリカでは開発されているという。
「不正防止のための措置にも、相当の予算を注がないと、毎年、巨額の無駄遣いがおこなわれてしまう」。
以上の加藤氏の主張では、「不正」や「無駄遣い」の具体例が挙げられていないのは残念だ。
この10年の間に、研究費の管理体制もより厳格になっていることだろう。
とはいえ、山口氏が自身の研究費の用途に「不正はない」と明言していることは、そのような不正が他の研究者に関しても絶対に起こり得ないという意味ではないことに注意したい。
【日時】2018年12月31日(月)
【提供】探偵Watch