国民的アニメの主人公の名前として親しまれる食用貝「サザエ」が、発見以来250年近く、学術上の名前が無いという意外な事実が判明した。
長い間、中国産の別種と混同していたことをつき止めた岡山大学の福田宏准教授は、事実上の新種として新たな学名を命名した。
この誤解の裏には、江戸時代に日本を訪れたシーボルトの存在も関係しているという。
地球上に存在するあらゆる生物は、動物命名法国際審議会(ICZN)の規約に従って学名が定められており、学名が無い未記載種は、生物学上では認知されたことにならない。
私たち日本人がよく知るサザエの学名は、18世紀の英国人博物学者ライトフットが命名した、渦巻きのツノを意味する「Turbo cornutus(トゥルボー・コルヌツス)」が使われており、サザエには、日本・韓国・中国に同じ1種類しか存在しないと考えられていた。
しかし20年前に日本の研究者が日本産と中国産のサザエが別種であることをつきとめ、中国産を新種の「ナンカイサザエ(Turbo chinensis)」と命名。
サザエとナンカイサザエは、いずれも殻にトゲを持つ個体と持たない個体が存在するが、トゲのある個体の場合、サザエは長いトゲが広い間隔で生えているのに対し、ナンカイサザエは小さな爪のようなトゲが狭い間隔で2列以上並んでいるという。
福田准教授がある日、サザエの学名をつけたライトフットの原典を読み直したところ、トゲの特徴からナンカイサザエだと判明した。
こういった混乱が生じたきっかけは、シーボルトが日本から持ち帰ったサザエを、19世紀の英国の貝類学者リーヴが描いた標本図にあると福田准教授は指摘する。
リーヴは日本のトゲのある個体を「Turbo cornutus」とし、トゲのない個体には新種として「Turbo japonicus」を命名。
ところがここで運命のいたずら、リーヴはトゲなしサザエとインド洋のモーリシャス産のまったく別の貝を混同してしまい、同じ図鑑に掲載。
こうして日本の国名を冠しているにもかかわらず、学名「Turbo japonicus」はモーリシャス産の貝にしか適用されない名前となったわけだ。
国際規約上、名無しのごんべえとなったのを不憫に思った福田准教授は、今回新たに学名を「Turbo sazae」と命名。
晴れて学名も通称も「サザエ」が使われるようになったのはめでたい限りだ。
福田准教授は、「ナンカイサザエが西洋で図示されてから250年もの間、誤りが気づかれなかったのは、18世紀の文献を閲覧することが難しかったからだが、それにもまして大きいのは、サザエのように知られた貝の同定が間違っているはずがない、という研究者の先入観や思い込みがあったからではないか」と指摘している。
なおこの研究成果は、軟体動物学誌『Molluscan Research』に掲載された。
【日時】2017年05月27日(土) 06:30
【提供】ハザードラボ