法律上の因果関係をどのように理解すべきかについては、従来から、大きく条件説と相当説(または相当因果関係説)との対立がある。条件説によれば、法律上の因果関係は、行為と結果との間に「AがなかったらBもなかったであろう」という条件関係conditio sine qua non(ラテン語)があれば足りるものと解される。この見解に従えば、結果に対してなんらかの自然的条件をなすものはすべて因果関係ありということになる。たとえば殺人犯の母親は、この犯人の殺人に対して因果関係があることになる。これでは因果関係の範囲があまりにも広がりすぎる。そこで、条件説における因果関係を限定しようとする立場から、条件説における条件関係の存在を前提としつつ、このなかから、一般経験則に照らして、その行為からその結果が発生することが相当であるとみられる場合にのみ、法律上の因果関係を認めようとするのが相当説である。ただ、相当説にも、その相当性をどのような事情(資料)を基礎として判断すべきかについて次のような3説がある。すなわち、行為当時に行為者が現に認識していた事情または認識しえた事情を基礎とする主観説、行為当時に客観的に存在していた事情および行為後の事情でも予見可能なものをも含めて基礎とする客観説、行為当時、一般人に認識しえた事情および行為者が現に認識していた事情を基礎とする折衷説がそれである。