■母親の過去の“性の遍歴”が子どもに影響を及ぼす
人間の遺伝とはどうやら一筋縄ではいかないようだ。夫婦の“共同作業”であり“愛の結晶”である子どもがもし、父親に似ても似つかない風貌だったとしたなら……。妻の浮気を疑ったとしても、現代であれば最終的にDNA鑑定ですべては判明する。正真正銘の夫婦の子どもであっても、父親にまったく似ていないことなどあるのだろうか。
それはじゅうぶんあり得ることであるという研究が、2014年にオーストラリアのニューサウスウェールズ大学から発表されている。研究ではハエ(ショウジョウバエ科)を使った実験で、交尾と子どもの形質の分析が行われたのだ。そして研究では、交尾をして生まれたハエの子どもの身体の大きさが、本来の父親よりも以前に交尾をしたパートナーの影響を多く受けているという驚きの結論が導き出されたのである。実際の父親の影響をあまり受けることなく、前のパートナーが大きければ子どもも大きくなり、同じく前のパートナーが小さければ子どもも小さくなる傾向が浮き彫りになったのだ。
研究チームによればこの現象は、前のパートナーの精子に含まれているある化学物質が、交尾の後もずっとメスの体内に残り続けているためであると考えている。実験では身体サイズの大小の差がはっきりつく2グループのオスのハエを選んで用意し、メスのハエとの交尾を記録した。すると例えば異なるオスと2回の交尾の後に2回目で受胎した場合、驚くことに孵った子どもは最初に交尾したオスのボディサイズに近くなることが判明したのだ。つまり、最初に身体の大きなオスと交尾したもののその交尾では受精せず、2回目の身体の小さいオスとの交尾で卵が受胎した場合、その子どもはどういうわけか最初のオスの子どもであるかのように身体が大きくなるのだ。もちろんDNA的には小さなオスとの間にできた子どもなのだが、最初のオスの精液に含まれていた化学物質がその子どもに影響を及ぼすと考えられている。