知らない貴女
32年前の今頃、高校の修学旅行で名古屋からの貸し切り列車が夕刻停車した駅、塩尻。
一昨年、木曽路を旅してその一瞬がこの駅だと思い出した。いや、それがどこの駅だったかを探す旅でもあったのだ。
冬らしいどんよりとした空模様。その子は目の前のベンチに座って本を読んでいた。同じ年くらいの女子高生をしばらく車窓から見つめていた。
それに気付いたその子は、嫌恥ずかしがって反対側のベンチへ移動してしまい、ハッ!として少し目を見開いた。
そんな他愛もない光景がずっと忘れられなかったのだ。あの一瞬は何だったのか。彼女を横目に電車は再び走り出したのだった。
電車を降りてプラットホームをぐるりと見回してみる。空は明るい。それらしいベンチ。ファインダーを覗いてカメラのシャッターを切ってみた。時を超えて17歳だった自分とあの子を切り取る。
貴女の顔なんて覚えてもいないけど、会いに来たんだよ。思い出をありがとう。またいつか。
32年前の今頃、高校の修学旅行で名古屋からの貸し切り列車が夕刻停車した駅、塩尻。
一昨年、木曽路を旅してその一瞬がこの駅だと思い出した。いや、それがどこの駅だったかを探す旅でもあったのだ。
冬らしいどんよりとした空模様。その子は目の前のベンチに座って本を読んでいた。同じ年くらいの女子高生をしばらく車窓から見つめていた。
それに気付いたその子は、嫌恥ずかしがって反対側のベンチへ移動してしまい、ハッ!として少し目を見開いた。
そんな他愛もない光景がずっと忘れられなかったのだ。あの一瞬は何だったのか。彼女を横目に電車は再び走り出したのだった。
電車を降りてプラットホームをぐるりと見回してみる。空は明るい。それらしいベンチ。ファインダーを覗いてカメラのシャッターを切ってみた。時を超えて17歳だった自分とあの子を切り取る。
貴女の顔なんて覚えてもいないけど、会いに来たんだよ。思い出をありがとう。またいつか。