>>519
野村克也
お前は、東京六大学の大スターだった。鶴岡さんが大沢(啓二)さんを使って、お前と杉浦を南海に勧誘していることは知っていた。あるとき東京遠征の宿でわれわれが雑談をしていたら、大沢さんが帰ってきて、こう言った。
「俺の(立大の)後輩の杉浦、長嶋が南海に来ることになったから、よろしく頼むよ」
俺は複雑な心境だった。「長嶋が来たら、俺は四番を下ろされるのかな」と思ったからだ。そんな話を新聞記者にしたら、「君はキャッチャー。疲れるポジションなんだから、五番でいいじゃないか」とあっさり言われてしまった。
何はともあれ、俺はお前とチームメイトになることを想定し、身構えていた。ところが結局お前は巨人へ行き、『南海・長嶋茂雄』は夢と消えてしまった。もしお前が南海に入っていたら、2人で『NN砲』と呼ばれ、日本シリーズで巨人を倒していたのだろうか。いや、その前に巨人はV9を成し遂げていなかったかもしれない。その後、南海が身売りすることもなかっただろう。