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　自然療法、陰謀論、マクロビ、ヴィーガン、冷えとり健康法、子宮系スピリチュアル、各種自己啓発。それらに次々とハマり半生を駆け抜けてきたＬ子さんは、SNS上で生まれた「元沼住人コミュニティ」でも圧倒的な存在感を放っている女性。当連載で３年前に開催した座談会へも参加いただいたものの（当時の参加名はラビ奈さん）、紹介しきれなかったエピソードはまだまだたくさん。そこであらためて、沼体験を聞かせていだきました。

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――Ｌ子さんはもともと、看護師として病院に勤務されていた医療従事者ですよね。それがどのようなきっかけで、自然派へと傾倒していったのでしょうか。

Ｌ子：看護師という仕事は、親から「食いっぱぐれがない」と勧められ、選んだ職業でした。食いっぱぐれないというのは、確かに魅力的。同意して、飛びつきましたね。ところがいざ働くと、勤めていた総合病院が大変な激務で、心身ともにすり減ってしまって。そこへさらに時代の流れで、さまざまな業務がデジタル化していきます。その変化についていかれずパニックになってしまったんです。やることが多すぎて疲弊した状態で、私のクリックひとつで死人が出るかもしれない恐怖に耐えきれなかった。そのうえ延命治療の様子などにも疑問を感じはじめ、もっと他の手段はないのか……と調べた結果、現代の科学や医療を否定するような、反医療ともいえる自然派療法へ傾倒していきました。

職場は総合病院ですから、大っぴらには自然派であることを口には出せません。でもプライベートでは身につけるものすべてを自然素材に、外食はせず自炊を、と徹底していきました。さらに反ワクチン、反添加物、農薬や白砂糖もダメ～と、フルコンボ状態。そのころ2回目の結婚をしたので、できるだけ自然で体にいいものをと生協の宅配をとりはじめたのが、さらに沼深くなっていくきっかけです。

そして私たちが飲んでいる牛乳は本当に安全なのかを調べはじめたことを入り口に、食糧をはじめ、世界のあらゆることはロックフェラーに支配されているという『マネーハンドラー ロックフェラーの完全支配 』（徳間書店）なる本に出会います。要は、陰謀論です。付せんを貼りまくり、読み込みましたよ。今はもう閉鎖されていますが、翻訳者のサイトにも入りびたり、さらに陰謀論に詳しくなっていきます。陰謀論の内容は、ロックフェラーを中心としたひと握りの光り輝く人々がさまざまな特権を駆使して世界を支配する……という、今も巷で流布されてる内容とあまり変わりません。そうした陰謀から身を守るためにも、将来は仕事をやめ、自給自足を目指すぞ、と決意を抱いていきます。夫は消極的でしたが。

――座談会のお話では、有名な自然療法研究家のセミナーなども手伝っていたというお話でしたね

Ｌ子：そうです。こんにゃく湿布のデモンストレーションを手伝ったらお客さんが大受けしてくださり、逆にそれがその先生に嫌われて、次のデモンストレーション予定を降ろされてしまった。私としてはお客さんに楽しんでもらい、自然療法の素晴らしさを伝え、入会者も通常の数倍獲得できたのでお役に立てたと思っていたのに、とても驚きました。自分より目立つことは許されない！　という怒りを感じましたね。振り返ると、その先生のもとに集まる人は、叱られたい人、修業したい人が多いのかなと感じました。セミナーを見た感じでは、私より少し年上の女性たちに熱烈なファンが多かったです。

――そうこうしているうちに、3.11が起こったと。

Ｌ子：ものすごい衝撃で打ちのめされると同時に、流通や電力に極力頼らない自給自足を目指していた私は間違っていなかった！　という思いが今まで以上に強固になりました。そして家中の家電を徹底的に断捨離。でもパソコンと携帯は手放さず、それがまた、事態を泥沼化させていくんですが。陰謀論掲示板の主催者を教祖と崇め、掲示板のグループと信仰を深めていったんです。それから仕事をやめ、被災者支援のボランティアに参加しながら、自給自足の地を探しはじめます。ところがです。以前もお話しましたが、無添加無農薬のマクロビ食を私が一生懸命作っているにも関わらず、夫が隠れてカップラーメンを食べていた！　信頼関係が蒸発し、もう一緒にいられない！　と、家出です。そもそも自然食は、糖尿だった夫の健康のためにはじめたものなのに。

――家出後、陰謀論仲間の家を転々とするものの、つづけざまに追い出されたと言いますが、その理由は？

Ｌ子：自分の思想を押し付けすぎたのかもしれません。そういう出来事が重なると、自分は人間としておかしいのではないか？　と情緒不安になっていきます。しかし生活が立ち行かなくなったので、寮完備の療養施設に就職したのですが、体調がすぐれず、次はなけなしのお金を冷えとりグッズにつぎ込みました。絹の5本指靴下と綿の靴下を重ねて履き、毒素排出、体質改善！　というヤツです。効果を信じて履きつづけた結果、何の効果も感じられないどころか、冬場は重ね履きしないと寒くて仕方なくなったので、逆効果だったかもしれません。

その次に訪れた衝撃は、家出したきり離婚した前夫が突然死したという訃報です。自責の念で情緒不安定はマックスになるし、心のより所にしていた陰謀論グループも、些細なことで教祖の逆鱗に触れて追い出されるし。

――掲示板の中心人物のアドバイスをスルーしたら、逆鱗に触れたというお話でしたね。沼の深みに引き込まれて搾取される人も多い中、逆に追い出されるというのもなかなかすごい。

Ｌ子：もしあのときコミュニティを強制退去させられなかったら、今ごろ「イチ、ニイ、サンセイトーー！」とか言って集会してたかもしれませんね。でもまた何か気に入らないこと見つけ、隣の沼のほうが楽しそう！　と、違う沼にハマっていたのかも。

――3度目の結婚は、その後？

Ｌ子：そうです。元夫の友人に訃報を知らせたことがきっかけで、遠距離恋愛が始まり、その後私も上京し、今は結婚してふたりで幸せに暮らしています。ですが、そこに至るまでも本当に本当に大変でした。知っていて付き合い始めたものの、彼は自己啓発やラエリアンムーブメント※、ネットワークビジネスその他いろいろなものに首を突っ込んでいました。結局それは、彼が某有名新興宗教の2世であったことが少なからず関係しているように思えます。双方の勧誘法や世界観に共通点が多かったので、おのずと惹かれたのかもしれません。

彼は20歳でその新興宗教のコミュニティから脱走して上京した「離れた二世」でしたが、私との結婚で親もとへ報告へ行ったのをきっかけに、また真面目な信者に舞い戻ってしまった。私もはじめは一緒に集会へ通っていましたが、洗脳臭のするやりとりや、教団内で児童虐待が行われていたというニュースがどうにも受け入れられず、夫の洗脳解除を決意しました。

※ラエリアンムーブメント　地球上のすべての生命は、異星人エロヒムによって科学的に創造されたという教えを広めている、新興宗教団体。フランスのモータースポーツジャーナリストが創立

――それができたのは、本当にすごいことだと思います。

Ｌ子：夫の煮え切らない態度にブチぎれたり、脱会のエキスパートという方と連絡をとったり、あれこれ手をつくしてやっとなんとかです。引きはがすことができたときは疲れきり、1か月ほど寝込みました。その後、夫と一緒に実践していたヴィーガン生活をやめる転機もやってきます。ふたりではじめた事業が少しずつ安定してきて、少しお金がたまると、夫が歯を治療したいと言い出したんです。ドラッグの常用など、過去のやんちゃでガタガタになっていたんですね。選んだ医者はホメオパシー医で、抗生剤はレメディでしたが……化膿しなくてよかった。

治療後、歯がしっかりしたからでしょうか、それまでガリガリに痩せるほどヴィーガンだった夫が突然「肉が食べたい！」と言い出したんです。そうして肉が解禁され、ふたりで徐々に外食するようになり、以前より健康になったと感じています。でも自然にドラッグやタバコに手を出さなくなったのは、一定期間集中的に玄米菜食をしていたおかげだと思っています。今でも、時々玄米は食べています。

――カルト宗教を脱し、食生活も標準的なものになり、そこからは平穏な生活に？

Ｌ子：カルト宗教を離れても、ハルマゲドンは信じていた夫。興味があるとすぐに飛びつき、深く知ろうとしてしまう私。っていうふたりですから、そんなわけがありません（笑）。次は、始めたばかりの零細事業をなんとかしたくて、夫婦での自己啓発セミナー沼です。

当時のランドマーク・エデュケーション※※に数十万つっこみ、子宮委員長はる（現在さやりんごと改名）や佐藤みつろうなどの、スピリチュアルブログを愛読。当時、子宮委員長の夫であった岡田哲也氏のセミナーにも行きました。内容の薄さに正直がっかりしましたが、自分はまだ理解できていないだけなのかも？　と、何度も足を運んでしまうんですよね。セミナーだけでなく、その手の方々のオンラインサロンに入ったり、雑貨を買ったりもしています。過剰に期待をしちゃうんですよ。想像力と思い込みで、ネットの世界で見る彼らがいかに素晴らしいのか！　と。彼らが、自分にはない特別なものを持っているような気がしていた。しかし最終的に目が覚めたのは、彼らのトークショーやセミナーがあまりにも学芸会に見えてきたからです。何度も何度も会いに行き、結局一度も素晴らしさを感じられなかった。時間をかけてようやく、己のバカさを痛感しました。

※※アメリカ発祥の有名な自己啓発セミナー

――ハマっていた時期に、充実感や楽しさはあったのでしょうか。

Ｌ子：選ばれし人！　みたいな高揚感はあれど、結局ずっと、不安は解消されませんでした。自己肯定感が埋まるわけでもなく癒されるわけでもなく、むしろ不安をあおられつづけたように思います。それが、まだまだ自分はぜんぜん真理をわかっていない！　みたいな感覚になっていき、ずっと道半ばです。自然療法では、無責任なアドバイスで加害者になってしまった罪悪感もいまだ持ちつづけています。どこに行っても救いはなく、隣の沼がさらによく見えて、次から次へと。

そうしたループから抜け出せたのは、夫とふたりで真剣に事業に取り組みはじめたことです。技術はもちろん、体力を使うハードな仕事であり、長年の営業がやっと実を結んできた。同棲時代はホームレスも経験しましたし、その後もアルバイトで食いつなぐ極貧生活。今そこからやっと抜け出した状態ですので、損得勘定がすっかりシビアになりました。これに投資したら、どれだけ見返りがあるのか？　そこまで価値のあるものなのか？　と、立ち止まって考えられる。自分がやるべきことに向き合い、周りは気にしないことがいかに大切だったのか。

たぶん私は根っからのカモ体質なので、そのぐらいシビアでも足りないぐらいだと思います。単に、モンサント！　添加物！　とか言っていられるのは、住むところもあり、生活に余裕があったからできたことだというのもあるでしょう。巨悪を設定して戦うというのは、ある意味厨二病だし、厨二を患ってられるのは幸せなこと。しかし反ワクチンや過剰な自然信仰を含め、過激になったら多様性と認められる範囲を越えてしまうと思います。

――今の生活はいかがでしょう。

Ｌ子：昔さんざん悪者にして避けてきたヤマザキ製パン、味の素、電子レンジのメーカーさんに謝りたい気分です。今はほぼ毎日お世話になってますし、生活を楽に便利にしてくださってありがとうございますとお伝えしたい。仕事が安定し、念願のネコも飼える環境になってささやかな幸せな毎日を送っています。それでもいまだに、「この人はスピリチュアルを冷静に捉えてる！」と思った人が、まったく説得力のないダブルスタンダードだったと判明してがっかりしたり。でもそれを周りの友人たちにツッコんでもらいつつ、しっかり自覚していきたいです。元沼住人・信者だった黒歴史を、沼ウォッチャーたちに軽く笑ってもらえることにも救われています。親身に大変だったねとか言われるのも、わかったようなことを言われるのも、つらいんですよ。もちろん強く非難されたくもないですけれど。いつでも自分は沼の淵ギリギリを歩いてる。またハマる可能性はゼロじゃない。そういう気持ちを忘れずに、「違和感を覚えたらそっと離れろ」を座右の銘に、周りの楽しい人たちを大切に生きていきたいです。

――その交友関係が、末永く健全で平和でありますように。