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中国の歴代王朝の一つである「宋」（960－1279年）は、北方民族に対して常に劣勢だった。軍事面では「ぱっとしない」時代だったとも言える。しかし宋代は、中国文化の方向性が最終的に決まった時期として極めて重要だ。そして経済が大発展した時期でもあった。中国史上初めて、海を通じての交易が対外貿易での大きな比重を占め、経済面では繁栄した時期でもあった。宋代の歴史を研究して多くの著作がある華東師範大学歴史学科の黄純艶教授はこのほど、中国メディアの中国新聞社の取材に応じて、宋代の経済や社会について解説した。以下は黄教授の言葉に若干の説明内容を追加するなどで再構成したものだ。

■圧倒的な経済力と技術力を備えていた宋代中国

宋代に海洋貿易は空前の繁栄を遂げた。宋は周辺のアジア諸地域との海洋貿易で有利な立場にあった。まず、商品が優れていた。広東省陽江市沖合いで2007年に引き揚げられた「南海I号」は、1160年代に沈没した船だ。見つかった20万点近い商品の中には磁器、鉄器、金銀、銅銭および絹製品があった。積み荷の種類はは宋代の記録と一致している。

これらの商品は海外諸国では生産できないか、生産できても中国製品に比べて品質がずっと劣った。つまり中国には優秀な輸出商品がそろっていた。中国は一方で香料や生薬、象牙、宝飾品など、中国国内では入手できない、あるいは入手困難な資源性商品を輸入した。



当時の中国は技術面でも卓越していた。まず造船技術だ。宋代の外洋航海船は船体が大きく、防水隔室や多層甲板技術が取り入れられていた。つまり船の強度が高く、浸水しても沈没しにくい構造だった。北宋後期からは、羅針盤が普及した。船には羅針盤を扱う専門家が乗り込んでいた。方角を正確に知ることで、航海の安全性と効率はさらに高まった。

当時の中国からの「輸出品」には銅銭もあった。大量の宋銭は東アジアや東南アジア諸国に放出され、当時の重要な「国際通貨」になった。特に高麗を除く東アジア諸国では最も主要な通貨の一つとなった。

宋代は中国の歴代王朝の中で貨幣鋳造量が最も多かった。宋銭は遼、西夏、金、そして日本、現在のベトナム北部にあった国の交趾、さらにその他の東南アジア諸国の国内取引にも使われるようになった。そして周辺諸国は宋銭にならって貨幣を造るようになった。

宋銭の流出は民間の経済交流の結果であって、政治的に推進したのではない。むしろ、貨幣鋳造の規模が大きかった宋でも、大量の銭が外国に流失したために、国内での銭不足は深刻だった。そのため公式には銅銭の国外持ち出しは厳禁されていた。また周辺国で宋銭の持ち込みと持ち出しを禁止した国も珍しくなかった。

当時の国際貿易は主にバーター貿易であり、宋銭も商品の一種と見なされていた。また各国の禁止令もあり、宋銭はアジア国際貿易の中で統一的な決済手段にまでなったわけではなかった。

■周辺国が宋に書籍を「逆輸出」、日本の仏教が中国にも影響を及ぼす



宋代は歴代中央王朝の中で初めて自国民の海への貿易を許可し奨励した。そのため多くの中国商人が海外に出た。「高麗史」によれば、高麗貿易に従事した宋の商人は4665人いた。この数字は当時、把握されていた人数だけの集計だ。日本の博多にもかなりの規模の宋商人が居留していた。東南アジア地域の宋商人はもっと多かった。

中国の商人はアジアの海洋貿易においてアラビア商人と肩を並べる主導的な力だった。東南アジアでは、宋船が入港した直後に商取引が最も活発になった。中国商人は、南シナ海地域からから密輸された商品を日本や高麗に転売した。このことで、南シナ海と東アジアの海域に統一された貿易システムが出現した。

貿易の隆盛は、文化の伝播も促進した。中国から周辺国に伝わった文化は多かったが、それだけではない。高麗や日本には、中国では失われてしまった古い書籍が残っていた。そのような書籍が中国に「逆輸入」された。また、宋の商人だった周文徳は、日本の僧侶の源信が10世紀末に著した「往生要集」を中国の天台山国清寺にもたらした。この書物は極楽往生に関する重要な文章を集めた内容であり、中国では唐末からの混乱によって散逸した教法を復活させる重要なきっかけになった。また外国人商人は、中国にイスラム教、マニ教、ヒンズー教などを伝えた。

■当時の平和共存と改革開放が現代に教えることとは



商業活動は政治にも関係した。ただしそれは、政治の側からの「平和利用」という性質のものだった。宋朝はしばしば、商人を利用して政治的意向を諸国に伝えた、例えば神宗（在位1067－1085年）は、約40年間中断していた高麗との公式交流を再開しようとした際に、福建の商人らを通じて高麗にその意向を伝えた。商人にとって宋と諸外国との友好関係は交易に有利なので、喜んで協力した。

宋代の海上貿易政策は比較的開放的で、外国商人の中国訪問も歓迎した。つまり中国人と外国人の相互往来が実現した。この歴史上の経験は現代に対する一つの教えでもある。まず宋代の中国人は海洋貿易を通じて、中国以外の諸国についての具体的知識を得た。異なる信仰、異なる習慣、異なる制度を持つ社会が多く存在するという、多元的な考え方が浸透していった。



そして、中国国内では輸出品を生産する目的もあり、商工業を主体とする経済構造が次第に形成されていった。資本の蓄積や、共同出資による事業も発生した。雇用体系の確立や船舶のリースなども出現した。すなわち海洋貿易が盛んになったことが契機となり、社会や経済の改革が出現した。

宋代には諸外国との貿易を通じて、互恵とウィンウィンという理念や、それを実現するためのメカニズムが出現した。まさに持続可能な発展のための基礎が出現した時代だった。開放と交流により互いによりよい社会を形成することは、まさに現代社会が追及すべき理想であるはずだ。（構成 / 如月隼人）