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甲府市内で2021年10月、夫婦が殺害され自宅が全焼した事件で、甲府地検は8日、殺人や現住建造物等放火などの罪で市内の19歳の男性を起訴し、報道機関に実名を公表した。
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「重大事案で、地域社会に与える影響も深刻」。8日午後3時ごろ、甲府市中心部の法務総合庁舎にある甲府地検で、岡本貴幸次席検事が特定少年の起訴を発表した。改正少年法施行に伴い、検察が特定少年の実名を公表したのは初めてだ。
岡本次席は最初に、実名入りの起訴状の一部を淡々と読み上げた上で、集まった約30人の記者に実名を明らかにした理由を説明。事件の動機や証拠の中身に関する言及は避けたが、実名を公表すると被告に伝えたかどうかを問われ、「していない」と付け加えた。
被告の弁護士は起訴を受け、これまで社会に実名が明らかにならないよう求めてきた経緯を踏まえ、地検の発表を「遺憾」とするコメントを出した。その中では、報道機関に対し「少年の健全育成、更生が不当に妨げられることのないよう、(実名報道の)必要性を厳格に判断し、内容や方法を慎重に検討することを求める」とした。
今回の改正少年法の施行に至る経緯には、実名報道を巡る歴史的な紆余(うよ)曲折がある。
現行の少年法61条は、少年の立ち直りの妨げになるとして、実名や顔写真の報道を禁じているが、罰則はない。戦前の旧少年法には罰則があったが、戦後になると、表現の自由を尊重する趣旨で禁止規定を維持しつつも罰則を廃止した。
戦後しばらく、61条は順守されない傾向があったが、日本新聞協会が1958年に少年事件報道の方針について「氏名、写真は、報道すべきではない」とする原則を発表。人権意識の高まりとともに、多くの報道機関が匿名報道を選択するようになっていた。
今回の法改正は、起訴された特定少年を61条の適用外とした。これに伴う実名報道の解禁には賛否両論があるが、報道各社は自主的に判断していくことになる。