ロシアによるウクライナ侵攻を受け、日本政府はロシアに対して4月19日からロシア産の単板をはじめとする一部木材の輸入を禁止した。ウクライナ侵攻の影響は、すでにさまざまなモノの値段に表れている。ロシア産木材の高騰で今後、住宅価格はさらに上がると予想されている。
米国では好景気とコロナ禍でのリモートワークが増えたこともあって、住宅需要が増加。2021年3月頃から急激に木材価格が高騰し「ウッドショック」と呼ばれた。日本でも木材が足りなくなり国産木材の価格が上昇した。21年3月に6万円台だったスギ正角(乾燥材)の価格は、8月に13万円を超え、その後も高止まりしている。
今、懸念されているのが、ロシア発の「第2次ウッドショック」だ。ロシアは世界の木材輸出量の21%を占める世界有数の森林大国。ウクライナへの軍事侵攻に対する経済制裁で木材の輸入が難しくなり、価格高騰に拍車がかかる恐れがある。
ロシア産の木材は強度が高く耐震性に優れているとされ、木造住宅で重宝されてきた。日本の住宅の壁や床などに使われる合板の約8割、製材の約2割がロシア産木材とされており、建築現場では「第2次ウッドショック」を懸念する声が上がる。農林水産省によると、21年のロシアからの材木の輸入総額は634億円。日本の木材輸入総額(約1.2兆円)の5%にあたる。
RFPののれん代の償却が重荷に
ロシアに対する経済制裁で、建て売り分譲住宅最大手の飯田グループホールディングス(GHD)が揺れている。21年12月、ロシア東部の森林企業ロシアフォレストプロダクツ(RFP)の買収を発表。今年1月、RFPの株式の75%を取得し子会社にしたばかりだったからだ。総投資額は600億円と巨額である。
RFPはロシア東部のハバロフスクを拠点とする企業。保有する森林の面積は約400万ヘクタールと九州地方とほぼ同じの広さだ。日本の住宅メーカーの森林取得では過去最大といわれた。飯田GHDは年間約4万6000棟の戸建て住宅を販売しているが、1年間に販売する住宅の木材使用量に匹敵する原木をRFPから調達できるという触れ込みだった。
飯田GHDの22年3月期の連結決算(国際会計基準)は売上収益が21年3月期比5%減の1兆3869億円、純利益は24%増の1039億円と減収・増益だった。主力の戸建て分譲の販売棟数が4万1534戸と21年3月期より5086戸(11%)減ったのが減収の主な原因だ。一方で、採算性を重視し物件価格を引き上げたことで2ケタの増益は確保した。
23年3月期の純利益は資材価格の上昇が利益を圧迫し、22年3月期比8%減の960億円を見込んでいる。ロシア事業が注目点だ。飯田GHDは「RFP社との取引実績は約20億円程度であり、影響は極めて限定的」「RFP社の主な輸出先は中国。日本向けは、およそ10%程度であり、国際的な木材価格の上昇が収益面でプラスに働くと見込まれる」として、ロシアに対する経済制裁の業績面への影響は軽微だと説明している。
一般的にM&Aの失敗は、のれん代(買収した金額と買収される会社の純資産の差額)の償却となって表れる。飯田GHDの22年3月期末の、のれん代は2202億円。21年3月期から204億円増えている。
21年12月に次期社長候補として呼び声が高かった千葉雄二郎取締役(主要子会社の飯田産業社長)が「損失飛ばし」に関連して辞任する騒ぎがあったばかりだ。RFP買収を好感して株価は1月13日に2853円の年初来高値をつけたが、ロシアのウクライナ侵攻後の3月8日には2001円と年初来安値に沈んだ。下落率は30%である。その後の安値は5月17日の1874円だ。6月に入ってからは2000円の日も出ている。
RFP買収に伴うのれん代は、ロシアでの事業のリスクをどう判断するかで決まる。飯田GHDに親ロシア企業というレッテルが張られると、最終消費者の見る目はいっそう厳しくなるだろう。飯田GHDの森和彦名誉会長の去就に株式市場の視線が集まっている。
(文=Business Journal編集部)