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健脚称賛説:「馬鹿」という言葉は、元々「馬のように早く走り、鹿のように高いところも易々と駆け上がる健脚」を持つ人や動物を賞賛するために使用されていたとする説です。この仮説は、言葉の起源を、人間や動物の身体的能力への敬意と称賛に求めます。この説によれば、「馬鹿」という言葉の使用は、古代日本における狩猟や移動が主要な活動であった時代に遡ることができます。この時代、馬はその速さから、鹿はその跳躍能力や山岳地帯での敏捷性から、どちらも高く評価され、尊敬されていました。したがって、人間や他の動物がこれらの能力に匹敵するほどの身体能力を示した場合、「馬鹿」という言葉を使って、その卓越した健脚を讃えるために呼びかけられたのです。このような文脈では、「馬鹿」という表現は、その人の身体能力や運動神経の優れていることを示す肯定的な意味合いを持ちます。例えば、ある人が山を駆け上がり、平野を駆け抜ける能力を見せたとき、「彼はまるで馬のように早く、鹿のように高く跳べる。真の馬鹿だ」と称賛されたのかもしれません。しかし、時代が進むにつれて、このような身体的能力が日常生活や社会の中での価値を失い、また言葉の意味も変化していきます。特に、社会が農耕中心の定住生活へと移行し、身体的な能力よりも知的や社会的なスキルが重要視されるようになると、「馬鹿」という言葉はその元々の肯定的な意味から遠ざかり、現代に至るまでに否定的なニュアンスへと変わっていったのです。この説は、言葉が持つ意味の変遷を、社会構造や価値観の変化と密接に関連付けて考えることを可能にします。