それはとても美しい光景だった、全身に泥を纏った彼女の身体はギリシャの女神像のようだった。
一本の薄暗い電灯に灯され湯気を発する彼女の身体は暗闇に美しい曲線を浮かび上がらせていた。
「綺麗だ」私は思わず口に出した
「もう何よ、恥ずかしじゃない」
彼女は両手で泥湯を掬うと私の胸にかけて来た、そして今度は泥湯を自分の顔に擦り付けた
「ばぁ」彼女は泥だらけの顔を私につき出すと聞いてきた
「これでも綺麗？」
「綺麗です」
「君だって綺麗よミケランジェロのダビデ像みたい」
「？…」彼女はクスクス笑った。
「そう言えば名前まだ聞いてなかったね、君はなんて名前？」 私が名乗ると彼女は
「私はね」
「？」とても不思議な響きの名前だった「え？」私がもう一度聞き直すと彼女は「もう！」と言って近づいて来た。
「こう書くの」と私の胸に細い指先で書いた。
泥を削られて浮かんだ文字は私からは見えなかったが彼女は満足そうだった 結局名前はよく解らないままだったが私は「知らない男に名前なんて教えて大丈夫ですか？」と聞いた
「何言ってるの私の裸見たくせに」
「この後どうするんですか？」
「何？ナンパ？上司に言い付けるわよ」
「ナンパじゃないですよ」彼女はケタケタ笑って言った
「冗談よ冗談！ビールよビール！風呂上がりはビールに決まってるでしょ！当たり前じゃない！」
