「弔毘八仙、無情に服す……!」
空間を断ち切って現れた殺人貴だった。その腕にしっかりレンが抱えられている。
「え?」
ボロボロに見える七夜(やくしゃ)はしかし平然と。
「駄目だなぁ。しっかり捕まえておけよ。お蔭で舞台裏にまで引きずり出されちまった」
優しくレンを地面に下ろした。白が黒を受け止める。
それこそ、まるで自分を扱うように優しく。意識を失った黒は猫の姿。
さながら、それは絵画のようだった。
「貴方……どうして?」
「あー……」
当然、白レンは七夜に尋ねる。
「参ったね。言い訳も考え付きはしない、アドリブに弱い役者だ、俺も」
観念したのか白レンの隣の芝生に腰を下ろした。
そうして彼は語りだす。自分の行動の理由を。
「てわけなんだが……なんだ。寝てるのか」
一旦は黒レンも起きたものの、どうやらすぐに白レンと一緒に眠ってしまったらしい。
白黒そろった猫はとても可愛らしい寝姿を晒している。
「殺人貴相手になんでこんなに無防備かね……ったく、殺す気も起きはしない」
立ち上がる。いたる所傷だらけだったが動けないほどの傷ではない。
もとよりあの氷は覚悟の上で受けたもの。ダメージ軽減はしっかり行っていたので、切り傷程度だ。
「ま、血が少ないからあんまり無理は効かないんだがね。
おやすみ、レン。望まれない役者は消えるとするさ」
怪夜が終わる気配を見せている以上、七夜志貴を支えるものはもうない。
せいぜいがあてどなく彷徨って消えるのを待つ程度か。
結局、誰にも理解される事無く。殺人貴は怪夜を終えて逝く……。
肩を竦め、まるで最期だと言わんばかりにこの台詞だけを遺して。
「ま、これが俺に相応しい終幕か」
七夜志貴は夜の公園(公演)を去った。