一週間で激短い奴三作という遅筆っぷり。ともあれ行きますよっと。
ゆったりと首をもたげる存在は、この世界と言う枠組みでも最強に位置する生命。
アルクェイド・ブリュンスタッド。吸血鬼、それも真祖殺しの異名を持つ枠外。
「いい月ね……こんな日は何もかも壊したくなるわ」
しかし、ソレはアルクェイドであって、アルクェイドではない。
朱い月と呼ばれる、封印された存在。
吸血鬼、その本能のままのアルクェイドだ。
「ようやく目覚めたのかと思えば、本体から抜け出た吸血衝動がカタチになっただけじゃない。
冗談にも程があるわ。身のほど知らずの虫けらが」
「すぐに、殺してあげる」
吐き捨てて、その身を歩くままに委ね。
「…………」
それは当然のように遭遇を果たした。
人間という規格、そこから外れたような大小の二人が争っている。
逃げる少女に、追う青年。更にその周囲には。
実際、その戦いは人間離れしていたのだった。
「っ!」
少女が、その可憐な指先から鋭い氷を創りあげ、放つ!
そう、迫ってくる巨大な角の一撃から逃れるためである。
無論、その角とは男のものではない。
鹿。黒く、大きすぎるほどの鹿が少女を襲っているのだ。
「どうした、使い魔よ。逃げてばかりではいずれ我が手に落ちるのみぞ?」
青年は、歩いて追うのみだった。鹿が、巧みな動きで少女の行く手を制限する。
その光景は、戦いと言うよりむしろ狩り。しかも、動物が人間を狩るものだった。
少女が鹿を氷漬けにし、離脱を図る、その一瞬の隙。
「行けぃ」
男のマントから飛び出した鴉の鋭い嘴が、少女の眉間を的確に。
「目障りよ」
捕らえることなく消失する。赤い、血のようであり炎のようでもある波動がカラスを焼き尽くしたからだ。
「私の持ち物に手を出そうだなんて……良い度胸じゃない、たかだか二十七祖程度が。
笑わせないでくれない?」
「む……それは失敬した、真祖の姫君」
すっと頭を下げる男。それだけを見れば礼儀正しい、普通の人間である。
だが、この男も吸血鬼。その中でもトップクラスの実力を誇る二十七祖の一人。
教会によってつけられた名を、ネロ。それに混沌を意味するカオスをつけてネロ・カオス。
「しかしてその殺気。
本当に貴公はアルクェイド・ブリュンスタッドの名を持つものなのか?」
「当たり前じゃないの……私以外にアルクェイドなんて居ない。獣で構成されてるだけあって、頭が悪いわね」
「……まぁいい。どうせ貴公も私に喰われてその獣となる身だ。先程の珍しい生物は逃してしまったが……
代わりに網に掛かったのが真祖とは恐ろしき偶然よな」
すっと。凶悪すぎる視線が666の命を内包する混沌を睨む。
周囲の空気が凍りつく。その中、動くものは逃げ出していく黒い少女だけだった。
「目障りな上に、耳障りよ、貴方?」
ふっ、と。ネロは笑いを漏らして。
「消えなさい……!」
その死刑宣告を真っ向から受け止めた。