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🪓 メルティブラッド攻略・地方


No.654720
合計:
#138
じゃあ、動かそうかな……。


琥珀は、今日もご機嫌だった。
掃除はやらせてもらえないので、終わった昼食の食器などを盆にまとめて、可愛い
翡翠ちゃんの待つキッチンに向かっている途中である。

「いっけいけGO、GO、メカ翡翠ちゃーん。派手に激し…」

と、呑気に流れていた鼻歌が、目の前で急に開いたドアに遮られた。
といっても、屋敷の住人たちは翡翠ちゃんを除いて全員リビングに居るから、今ここから
出現するのは、少なくとも玄関はこっそりと通り抜けたか、あるいはその他から入ったか、
いずれにせよ余りお行儀のよろしくないお客様という事になる。
……ドアから出てきたのは、足音だけだった。
正確には、一番高い頭頂部でさえ、琥珀の目線よりももう少しだけ下にあった。

「やっと見つけたわ」

腰を超えるほどの長さなのに、綺麗にまっすぐ整った白い髪。
それに負けないほど、白く艶やかな肌からは、幼さに反した色香も滲み出ている。
加えて、全身の装いまでも白で統一させたその白い少女は、無粋な登場の仕方を差し置いて
も、一つの美として完成されていると言ってもいい可憐さを持っていた。
その、やや吊り上がった目で少女は琥珀を見上げる。

「あらあら、白いレンさま。本日はお一人ですか?」

琥珀は、会話の先手を打った。
別に何の意図があるとかではなく、ただ先に声をかけただけの話なのだが、白いレンという
少女にとって、それはどちらかと言うと不愉快なものであったらしい。
更に少しだけ目を吊り上げて、にこにこ顔の琥珀に話を合わせてきた。

「本当に、広い家。あなた一人探すのに、もう十分近くは取られたわ」
「それでしたら、呼び鈴を押して頂ければ良いですのに。あ、志貴さん達でしたら、丁度
 いまリビングでお茶をされてますよ」
「……それをしたくないから、貴女だけを声も出さずに探していたのよ」
「ですよねー。でも、どういったご用件で?」

白レンも、そして琥珀も最初から、声はある程度抑えて話している。
リビングから近くはないが、広いとはいえ閑静そのものな屋敷の中は、場所によっては
山彦じみたものが狙えるほどに声が響くのだ。

「ええ、と……。その食器、あなたキッチンにでも行くのかしら?」
「はい。昼食をお料理した際のお片づけは、もうしっかりと出来てますよ」
「……なら、ご一緒させて貰おうかしら」

ええ、と小さく頷いて、どちらともなく、自然と二人が揃う形で歩き始めた。
……白レンの方はともかく、琥珀にとってこの訪問は、何ら突然というものでは無い。
指定はなくとも、必ずあると知っている出来事が、今日になって来たというだけの話。

「いっけいけGO、GO、メカヒスイちゃーん。派手に激しく行っき…」

白い壁が続く廊下には時折、日めくり式のカレンダーがかけられている。
すれ違う二人に対して、それは二月を十と四日過ぎていることを伝えてきた。
今朝それをめくった琥珀は、見向きもしない。
改めてそれを確認した白レンは、少し吸い込まれるように見入っていた。

「……何なのよ、その変てこな歌は」

通り過ぎて、再び目線が前方に戻った白レンがぼやいた。

「名付けて『見敵必殺・メカヒスイちゃん』! レンさまも歌ってみませんか?」
「……そんな歌じゃ、ワルツの一つも踊れないわ」

台所には、翡翠ちゃんがいる。
もちろん琥珀にできない食器の片付けのために来てくれているのだが、その後で琥珀の
淹れたお茶たちを、リビングに運ぶというお役目もある。
早い日なら、その直後から琥珀が台所で夕ご飯の下ごしらえを開始することは珍しくない。
だから、琥珀だけがキッチンに一人で入り、残るのは、とても自然で簡単である。

「そういえば。あなたは作れるのよね?」
「もちろん! お菓子だからって専門外なんてことはありませんよ。
 何より、今年は私も作ってみようと思っていましたし……」

きゃー、とわざと頬を赤くして、ぶりっこポーズを演じてみる。
それを横目で見ると、白い少女の目はますます細く吊り上がった。


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[ 琥珀さんのお薬 1-1 ]
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