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🪓 メルティブラッド攻略・地方


No.654720
合計:
#180
前回は>>179


「遅い」
「え? えぇ?」

首元に突きつけられた短刀。抵抗すればあっさり首が飛ぶだろう。
意味も、訳も分からない。視認どころか、感覚すら出来なかった。

「しかし、下手だね。どうも。この程度で俺に挑もうなんざ閻魔が笑う。来世からやり直せよ」

あの呟きは、自分に向けられていたもの。冷たい短刀。理解した秋葉が自分の死を覚悟した瞬間、殺気が消えた。

「勝負はついた。いいから家に戻れよ。拾い物の命を無駄にすることもないだろう?」
「……あなたは……」

死んだと思っているのに生きている、そんな馬鹿みたいな感覚を呆然と味わっている秋葉に向けられる言葉。

「この夜は、俺が貰い受ける。分かったら退け。七夜志貴からの最後の忠告だ」
「七夜……志貴」

無防備に背を向ける男、存在しないはずの兄のカタチを眺める秋葉。
これは、どんな夢なのだろう? やはり、悪夢か? そう考えている秋葉に、七夜は優しく語り掛ける。

「とは言え、何の説明も無しじゃあ退くに退けないだろう。我ながら浅い考えだったな」

すぅと息を吸い込んで一息に全てを語る。

「元々、俺はあっちゃいけない存在だ。いろいろと考えてみたところ、遠野志貴の使われていない、
 七夜志貴である部分がこの夜によって具現化したみたいだな。あの『先輩』も詳しくは知らないみ
 たいだったし俺に語れる事は殆どないんだがね……ま、呼ばれたからには殺すだけだ」

吐き捨てて去ろうとする七夜に秋葉が辛うじてかけられた言葉は一つだけだった。
混乱する思考に整理をつけられない、遠野秋葉がそんな状態に陥る事などなかなか無い。
対処法など知る由もなく、浮かんだ言葉を口にしただけ。皮肉にもそれだけが『兄妹』の間にかわされた会話だった。

「あなたは!? 何故私を殺さなかったのです?」

はぁ、とそう一息ついた兄は優しく妹に諭す。

「決まっている。妹を殺すような奴は兄貴じゃない、そういうことだ。じゃあな、秋葉。遠野志貴を
 頼んだ。頼りない奴だが、せいぜいしごいてやってくれ」
「待って、兄さん! 私は、私はっ……!」

そう、彼も遠野志貴の一部。自分を生かすために戦ってくれた兄に、秋葉はどうにか想いを伝えようとする。
それはごめんなさいなのか。先に手を出したのは秋葉だ。反転していたからと言って許される事ではない。
それはありがとうなのか。自分を助けるためにわざわざ戦ってくれたのだ。
それとも何か別の……その全てを伝えられぬうちに。七夜志貴は無情に告げる。

「いや、何を言っているんだ? 遠野秋葉に殺人鬼の兄なんかいない。俺とお前は『赤の他人』なんだよ」
「あ……」

こうして七夜志貴は遠野秋葉の目の前から去って行く。その背中で、俺なんかに情を移すんじゃないと語りつつ。

その後秋葉が呆然と、『兄』に言われた通りに帰ると屋敷が何故か滅茶苦茶だったのは別の話である。
無論、その惨状に自分を取り戻した秋葉が大暴れしたお蔭で屋敷は更に悲惨な状態になったのだが。


[ 紅の他人 4 ]
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