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🪓 メルティブラッド攻略・地方


No.654720
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#196
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その異変に、真っ先に気付いたのは彼女。
自分よりも力が強い人は周りにも多々いる。けれど一番最初は彼女だった。
宵闇の中、彼女は一気に夢から現実へと帰ってきた。もう一人の自分……それが自分に語りかけてきていたから。

「今夜こそは。私が戴くわ」

そう、させてはならない。自分はそんなこと望んではいないし、何より彼女は……。
後ろを顧みる。そこには自分の主人であり、そして。大好きな人が優しい寝顔を見せていた。
寝顔が優しい、と言うのは変かも知れない。でも、本当にそう思わせるくらい優しい人なのだ。
今夜は、この人を外に出してはならない。また、無茶をしてしまうだろう。

「…………」

本当に申し訳程度の一瞬、唇を触れ合わせた。
おやすみなさいの意思をこめたキス。それは眠りを促すものでもある。
自分がいなくとも、せめてよい夢を。
堕ちかけの太陽と、姿を現し始めている月。それを睨んで。
未だ異常は感じ取れない、しかし確実に普段とは異なるであろう宵時に。彼女は家を抜け出した。

夜は一気に深まった。比喩ではなく突然町は闇に落ちたのだ。
それに対して少しだけ残念な思いがあった。
もしかしたら……と考えなかったわけではないから。
取り込まれてしまったもう一人の自分。ちゃんと取り返して、一緒に過ごして生きたいと思う。

そうして彼女は一人夜を行く。あの雪原には、どうやったら辿りつけるのだろう?
それは誰にも、自分自身である彼女にも分からない事だった。


その異変を、真っ先に受け入れたのは彼女。
突然に力が与えられて。そう、それは彼女が引き起こした事だったから。
いや、取り込まれたと言ったほうが正しかったか。今では……この現象も思いのままなのだけれど。

「さぁ。私の夜を始めましょう」

そう、やらなければならない。それが自分の復讐でもあり、何より彼女は……。
閉じていた目を開ける。そこにはどこまでも広がる夏の雪原、自分の心の具現。
見ていたくなくて、もう一度目を閉じた。それほど、自分の心は好きじゃない。代わりに見るものは、好きな人の笑顔。
脳裏に浮かぶ顔に笑みを贈る。できるなら、私を迎えに着て欲しい。そして、受け入れて……。

「いえ、高望みが過ぎたわね」

頭を振って彼の笑顔を掻き消す。
その笑顔は自分に送られたものであって自分に贈られたものじゃない。
もし自分が彼女の位置にいたら、自分にもそんな笑顔をくれるだろうか?
多分、くれるのだろう。目を開ける。雪原ではなく、空を睨んで。
全てが異常なこの夜に笑顔を浮かべた。そして、ただ待っている。もう一人の自分がここまで来るのを。


[ 怪夜舞台〜the night actor〜一幕 ]
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