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No.7244421
#11
釜山からわずか十三里半の所に“気違い部落”がある。
といっても、まともな気違いが住んでいるわけではない。
貧乏な中で色と慾をむき出しにした農民生活が、
“気違い沙汰”にみえるので人々はこう呼んでいる。
機屋の因業親爺ペギ、高利貸ドリ、この二人の親方を中心に
十四世帯の集落は統一されている。
親方の権力は絶対で、集落の掟は国の法律より優先することさえあった。
ある日、頑固者のミョンバクは、昔祖父が集落に寄付した寺の境内が
まだ登記されていないのを知って、自分の土地だと縄張りをして耕しはじめた。
親分連はミョンバクの暴挙に腹を立てたが、彼は平気だった。
キム一家はミョンバクとのつきあいを断った。
何んでも屋のチョン夫婦も、酒好きのソジュン、自転車屋のシウ、
鉄次の伯父甚助までもこれに加わった。
結局ミョンバクの家は村八分にされてしまった。
これに一番困ったのはミョンバクの娘ソヨンだった。
彼女は自家の敵の息子で、東京へ出稼ぎに行っているミンジュンと恋仲であった。
駐在さんの骨折りも一切無駄だった。
ソヨンは肺病になり、集落に帰って来たミョンバクに頼まれた駐在は
ストマイを安く買ってやった。
ソヨンは一時はよくなったが、冬を迎えてポックリ死んでしまった。
ミョンバクが薬代のもとを取ろうとして、残りをヤミ売りしてしまったからだ。
誰ひとり弔う者もない寂しい葬式の翌日、家出して東京に発つミョンバクは
いい働き口があるとソジュンを誘った。
ミョンバクは「こんな村にいたって、百姓は雑木と同じだ。狭い土地に根を下し、
木材と養分の取りっこをしたとて何になる、先祖のして来たことの繰返しだ」
と、しかしソジュンは「ここを捨てたとて、日本中どこでもおなじだんべ」といった。


[ 匿名さん ]
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