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>>391
二人が歩いている最中、孤独に、少年は唸っていた。
「む、むむむむ……くそうあの野郎」
出店を回る志貴とさつきを草むらから見守る一人の影。
志貴の友人、乾有彦。
彼はさつきに気を聞かせて、用も無いのに志貴の誘いを断った——のだが、気になったが為にこっそりと見守っていた。
だが、予想以上に良い雰囲気に少し悔しくもなっている。
(今から入ってムードぶち壊してやろうか畜生ー)
そうは思っても、思うだけである。それが『乾有彦』という存在。
彼はひっそりと、二人の動向と成り行きを見守る。無論、デート中の二人は気づかない。
二人で歩いている最中、少年は考えていた。
(何か視線が……?)
志貴は妙な違和感を感じつつも、気のせいだ、と頭を振って切り替える。
今はさつきと二人きりである。今の今まで気づかなかったが、これは傍から見たら——否、当事者からしてみても、
(デート、なんだろうなぁ……)
彼女がどうして自分を誘ったのかは解らない。解らない、というよりは、気づかないようにしている、というのが正解か。
或いは、自分が誘われたのは偶然だ、と、どうにか一定の結論にたどり着かないようにしている。
「あ、綿飴だー」
そう。
隣で朗らかに微笑む彼女が自分のことを好きだ、などと思うのは、些か分不相応な妄想だ。
何故なら。
(こんな……可愛いんだもんなぁ)
先ほどからちらちら見てくる男も少なくない。
冷静に考えてみれば、自分はそういう男を払う為の虫除けなのかもしれない、などとも思う志貴であった。
二人で歩いている最中、少女は困っていた。
(うーん……どうしよう……)
こういった状況は初めてで、且つ想像以上に気恥ずかしい。
この余りに穏やかすぎる雰囲気を取り払える『何か』が欲しいが、早々都合よく転がっている筈も無し。
故に、互いにはにかんだ笑いを浮かべながら、夜店を回っていく。
(うーん、遠——志貴君、射撃とかって得意かなぁ?)
心の中でしか名前で呼べない悔しさ。
それら含め、悩みの種は絶えないが——今は思い悩んでいてもしょうがない。
自らを奮い立たせた言葉を、今一度頭の中で刻みなおす。
『さつきは少し消極的すぎるって! もっと攻めていかないと、幸せを取り逃がしちゃうよ!』
(そうだ……!)
攻める、という言葉。
滅多に使わないが、だからこそ心に響く。
積極的に行かなければ、祭りはすぐに終わってしまう。
この期を逃してしまえば恐らく、昔の、消極的な自分に戻ってしまう。
お膳立ては済んでいるのだ。
今という好機に攻めずにして、いつ攻めるというのか——。
「遠野君、射撃やろーよ射撃!」
「あ、うん」
すぐ後ろにいた少年に声をかけ、屋台のおじさんに代金を払う。
一回で四発、壇は五段。上の方は到底