前回は
>>613
まさかここまで長くなるとは思わず……
まだ暫く続くかもしれないので、嫌な人は全力で止めにかかってください
通りを外れて見晴らしのよい道に出る。赤みを帯びた陽光は二人を正面から照らしていた。
二人がこの道を一緒歩くのは、これが初めてであった。
二人は実に対照的で、翡翠は満足げに七夜の後を追い立てるようについていき、七夜は何かを諦めたように肩を落としており、時折荷物が地面を掠めていた。
普段はこれより前の時点の分岐で別れ、ここは七夜が一人で通るはずなのだが、
『あなたの家を教えてください』
『は?』
『あなたの家が知りたいのです』
『しかしまた唐突だな。理由くらい教えてくれないと返答のしようがない』
『それは……、不公平だからです』
『何が?』
『こちらがあなたの家を知らず、あなただけこちらの家を知っているというのはとっても不公平だと思うのです』
『まあ確かに俺は志貴だから遠野の家の位置は知っている。しかしこっちもあんまり家のことはおおっぴらにしたくはないんだが』
『さて、納得していただけたようなのでさっそくれっつごーです』
『待て待て、誰が連れていくといった?』
『もう曲がるべき所を通り過ぎてしまいました。責任を取って連れていってください』
『戻れよ』
『あなたはそのまま家に帰るだけで大丈夫です。私がついて行きますから』
『そういう問題じゃなくてだな』
『あなたは私にお家をお連れします』
ぐーるぐーる。
『! 洗脳か? その手には——』
『あなたは私にお家をお連れします』
ぐーるぐーる。
『——乗らんと——』
『あなたは私にお家をお連れします』
ぐーるぐーる。
『——翡翠』
『はい』
『早ク来ナイト置イテイクゾ』
『はい、ただいま』
『……あれ?』
そんなこんなで翡翠がついてきたのであった。
もっとも、本当の理由はもっと単純に、「もう少し七夜と一緒にいたい」というだけであったが。
翡翠にしてはかなり積極的な行動であったが、当の七夜は本当に自分の家まで尾行しているくらいにしか考えていないだろう。
それでもいい、と翡翠は思う。
しかし、翡翠は失念していた。
寄り道をするということは、それだけ帰りが遅くなるということである。