「さて、どうしたものかしらね・・・」
私は一人、夜の街を行く当ても無くぶらぶらと歩いていた
特に理由は無い
決してあいつが路地裏で座り込んでいた姿がどことなく寂しそうに見えたから
仕方なく横に座って温めてあげようと、というか丁度疲れていたのだし座っていただけなのに
「なんだ、腹でも減ったのか?・・・やれやれ、食欲旺盛なのは結構だがしばし待て」
などとデリカシーの欠片も無い発言があった事に腹を立てている訳ではない
ちょっと2人で見ると月もいつも以上に綺麗だな、なんて思ったけど
きっと季節の関係で月が良く見えただけだ、あいつは関係無い、うん、歩きたかっただけだ
「はぁ・・・あいつをマスターに選んで本当に良かったのかしら」
レンはマスターと一緒に寝たりしてると聞くがあいつはいつも一人で寝ている
別にそれが羨ましい訳じゃないけどあいつは本当に私を使い魔として見てるのだろうか
あいつと契約をした時もそうだ、彼は契約したにも関わらず命令も何も言わずに
「好きにしろ、付いてこようがこまいがお前の勝手だ」
とそっけない対応に呆れたものだ・・・契約して第一声がこんな奴初めてだった
そもそも契約の時にだって、その、血じゃなくても別に構わなかったのに・・・・
決してそっちを選んで欲しかった訳では無い、無いが客観的に魔術的観点から見て
直接交わる方が色々と都合が良い筈なのに「構わん、お前の意思に任せる」だなんて言うから
そもそも使い魔とは言えレディの口からそんな事言わせるつもりなのだろうか・・・まったく
「あー!もーなんであいつの事でこんなにもやもやしないと駄目なのよ!」
・・・だいたい、こんな時間に出かけるだなんてちょっと位は心配すべきだ
勿論マスターとしてであって決してそう言う意味では無いのだけど
「ふん、もう知らない!・・・志貴の所にでもいってやろうかしら」
「───そうか、好きにしろ、付いてこまいがお前の勝手、だしな」
「・・・!」
後ろを振り向くと案の定あいつがいた、タイミングの悪い奴
「別に構わん、兄弟の所の方が此処よりよっぽどいい生活が出来るだろう」
「そもそもあれだ、俺になんか関わらん方がいい、”殺人鬼”だしな」
──また、だ
「ああ─レンと言う使い魔も確かあの屋敷に居た筈だ」
「・・・お前には仲間もいるんだな、ま、気にしなくていい、俺は元々独り身だ」
──また、いつもそうやって・・・
「何よそれ!その態度が気に食わないのよ!いつも一人みたいな事言って」
「私が・・・使い魔になった時も・・・グス、いつもいつも・・・ヒック」
「もう・・・ヒック・・・馬鹿ぁぁ」
どうやら私は泣いているらしい、目に伝う涙が夜風に晒されて頬を冷やす
涙の出る理由なんて分からないし分かりたくも無い、あいつはこんな時でも涼しい顔で
・・・?なんだか様子がおかしい、元々変な奴だけど・・・ひょっとして動揺しているのだろうか
「その、なんだ、ほら、俺はだな・・・・・・・・あー、すまない」
「俺はだな・・・の事を考えて・・・いや、何も言わまい、すまん」
女の涙は武器と聞いたが、なるほど、正直に言うとうろたえるあいつは少し可愛く見えた
「すまないじゃ・・・グス、分からないわよ、馬鹿、ちゃんと言いなさいよ」
「・・・・・・すまない」
「ブッ、・・・ふふ、ほんとに馬鹿ね」
「あんたに言われなくても勝手にするわよ、ほら、お詫びに暖かいミルクでも用意して頂戴」
「ああ・・・その方が・・・?」
「なんだ、オマエ、まだ俺と一緒に居るつもりなのか?」
「そう、好きにする事にしたの、あんたの言う事は聞きたくないし」
「・・・ハッ、そうだな、好きにするといいさ」
「ええ、好きにするわよ」
夜の街を歩くのは殺人鬼、元々独りだった殺人鬼
しかし今、横には白い少女がいる、それで彼はどこか満足そうだった
「ああ──今夜はこんなにも、月が、綺麗だ──」