「・・・何なのこれは。」
いかにも不満そうに眉を寄せて呟くと、白レンは目の前のビニールの袋から俺へ紅い瞳を移した。
「何って、アンパンだが。」
「そんなのわかってるわよ!どうして夕飯がアンパン一個なのよ!」
「何だ、粒あんは嫌いだったか?」
「そっ・・・そういう事じゃなくって!」
壁に寄りかかって座り、のんびりとパンをかじる。うむ、ほどよい甘さだ。
既に日はとっぷりと暮れ、風に肌寒さを感じる夜の路地裏だった。
しばらく釣り上げられた魚のようにぱくぱくと口と手を動かしていた白レンは、なんとか落ち着いたらしく、
「・・・大体よ、志貴。夕飯にパン一個ってあなたどういう体してるのよ」
「それを言うならレン、君も夢魔の癖に夕飯を食べるってのもおかしな話じゃないか」
「それは・・・だって・・・私だって少しは皆が楽しむような事してみたいじゃない」
てっきりまた怒るかと思ったが、白レンはそう言うと俯いて地面を見つめてしまった。・・・む。
つい最近この世に現れたばかりの彼女にとっては、些細なことでも新鮮で楽しい事なのだろう。
そう考え、悪かったか、と思ったりしている自分に驚く。我ながらガラでもない。ないが・・・
「あー、レン。何か食いたい物はあるのか?」
「え・・・?」
ちょっと顔を上げ、潤んだ瞳を向けてくる。やれやれ、これに弱い、と思ってる自分にも驚きだ。
「その、何か特に希望があるなら調達してきても・・・ああ、どうせなら二人で買いに行っても良いが」
「!!」
ん?
「どうした?街に出るのが嫌なら俺が・・・」
「い、いえ、いいわ!そうね、あなたに任せてもどんなゲテモノを持ってくるかわからないし・・・」
お、いつもの調子が出てきたな。
「たまには外でその、ふ、二人で何か食べるのも悪くないわね!」
「そうか。それじゃあ行くか。」
と、食べかけのパンを置き、立ち上がった所にまた眉根を寄せた白レンの視線が刺さった。
「・・・あなた、その格好で行くの?」
言われて視線を落とす。変哲もない紺の詰め襟学生服。
「まぁ、そうだが。というか、他にないしな」
「駄目。」
「は?」
「駄目よ!こういうのは、その、もっとこう・・・オシャレじゃなくちゃいけないの!」
「?こういうのだって?」
「だから、その・・・デー・・・と・・・」
言いかけてごにょごにょと言葉を濁す白レン。デー・・・?
「何でもいいの!とにかく、まずは服ね。服を買いに行くわよ!」
「・・・まぁ、この際何でも構わんが、金はあるのか?今更だが。」
「あるわよ、勿論」
何?面食らう俺の前で白レンは分厚く膨らんだ財布を取り出して見せた。
「・・・一体どこから湧いて出てきたんだ?」
「そんなのあの女に聞いて。私だって知りたいわ」
あの女・・・ああ、真祖の姫か。
「なるほど、真祖の姫からガメてきたってワケか」
「失礼ね、退職金を貰ってきただけよ。」
ぷっ、と膨れてみせる。ふむ、一理ある・・・のか?
「ほら志貴!グズグズしてないで早く行くわよ!」
——まぁ、たまにはこんな趣向も悪くない、か。
ちょっと肩をすくめ、待ちきれない様子の白レンの方に歩き出す。
「ではお供しましょう、お姫様」
長い夜はまだ始まったばかり——
あーマイクテストマイクテスト。本日は槍なり。
続いちゃうんだろうか。