「ボサッとしない!」
閃光は、眼前を掠めて放たれた。
「…っ!」
同時に削るような暴風が頭部を襲い、とっさのバックステップ。
その間隙を埋めた黒剣が先行し、その刀身を粉々に粉砕された直後。
「そらぁっ!」
踏み込みの段階で時速100超過。そこから振りぬかれる真祖の爪はまっすぐに、対象を削り飛ばした。
「!」
あまりの高圧。2M程度のその体躯に秘められた力がいかほどでも、生温い。
吹き飛んたそれは空中で三転して体勢を立て直し、そしてそれはアルクェイドも同じだった。
死んだと、本気で思った。
だが、そうでは無かった。
僅か5M左。そこからの神懸かり的な一投は、速度から人間の技ではなく。
誰が投げたかなど、明らかな話しで。
「心配して、損した」
引きつった笑みながら、アルクェイドは確かな喜びを湛え。
「貴女に心臓を抉られた時の方が、三倍はゾッとしてましたよ」
シエルは座り込んだ姿勢のまま、修復を開始した右腕に黒剣を握り締める。
仇敵同士で笑みを浮かべ、だが再開の喜びより早く、
「ありゃ、そっちのお嬢は不死っ子かいな」
男の渋い声が、二人の耳に届いた。
ソレは、立ち上がっていた。
「しもた、楽やからて簡易制御はいかんな。呪衝(じゅつい)しときゃ3日は死んどったのに」
短く雑多に切られた、赤い髪。白黒チェックのスーツにお揃いのズボン。
黒いネクタイを半端に解き、無い左腕を補うように右腕を前に構える。
サングラスに隠れた瞳からは殺意など微塵も感じさせず、笑みに歪んだ口元が限り無く悪夢を連想させた。
「なーなー、大人しゅう志姫はんの居場所吐いてぇやー」
極め付けが、大阪弁。
「このままやとレスが先に殺ってまうねんて。いや、下手したらあのくそ犬裏切る可能性あるし、それは後々めんどいし」
なんともふざけたちぐはぐ男。
そんな男相手に、二人は踏み込めない。
踏み込めば死ぬと、一人は経験一人は直感が告げ。
「そっちの子は知ってない? 吐いたら二人とも逃がしたるさかい」
踏み込んできた男を、容赦なく迎撃した。