躱した。
「……!」
それは、異形な能力持ちにすら神業と思わせるほどの、回避。
撃ち落とされたナイフは、個々が意志を持つかのように幾学的な軌道で七夜を襲う。
一つ目は右方向にやや円を描くように旋回。二つ目は直接的に高速で。三つ目は二つ目の周囲を回り展開。四つ目と五つ目が足元を掬うように連なって地面を這い、六つ目が背後から進撃した。
「チェック」
決定打を確信した志姫が呟き、紫電に隠れた左手にナイフを据える。
だが。
「終わったと、思うな…!」
瞬時に身を転じた七夜が、それら全てを迎え撃った。
一つ目をナイフで弾き、二つ目をミリ単位の回避でやり過ごし、三つ目を直にその手に掴む。
そこまで、コンマの攻防。
あまりにも、速過ぎる。
危険だ。
「…!」
殆ど反射的に、志姫は手に持ったナイフを投擲。
それが愚行だと気付いた時には、既に七夜は四つ目を三つ目で地に縛り付け、五つ目を踏み締めていた。
有り得ない。ほぼ完璧に足並みを揃えたはずのナイフが、順々にその動きを止められていく。
七夜が、志姫を振り向く。
同時に疾った六が七夜の頬を掠め、鮮血に濡れた七がその眼前で叩き割られた。
その段階で、七夜の姿は志姫の目の前。
「そらっ…!」
5Mの距離は、どこにいったのか。
咄嗟に身体を飛ばした志姫の肩から、鮮血が飛ぶ。
そして既に、七夜は志姫に平行して接近。
「…!」
抜き放ったナイフが、だが刀身を確認する前に砕け散る。
殺される。
志姫はここにきて、ようやくそう認識。
後ろから追撃した三本が、何故か七夜の背を前にして同時に砕け、上空からの二本が目標を見失い地面に突き立つ。
不意打ち気味に懐から放った八本目すら、その身体に届かず。
(まず…い!)
もう、遅い。
「終わりだ…!」
とうとう七夜の動きが、先行したはずの志姫を上回り。
七夜の短刀が志姫の胸、心臓の定位置を的確に刺し貫いた。
ちょっと頑張ってみたりしました