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トランプ政権が発足してわずか4か月が経過したが、「MAGA（アメリカを再び偉大にする）」派を中心とする政府関係者らは学術研究への攻撃を続けている。ハーバード大学やコロンビア大学への補助金が削減され、ハーバード大学は国際学生の受け入れが困難な状況に追い込まれ、連邦政府による先端研究への資金提供も相次いで停止されている。トランプ氏とMAGA陣営の理由が「反覚醒」や「反ユダヤ主義対策」であろうと、英エコノミスト誌は22日、米国が科学覇権を権威主義的な中国に譲り渡し、その恩恵を失いつつあると警告を発した。これは多様性や平等の価値観、大学教育の問題にとどまらず、米国が自らを傷つける愚行だと厳しく批判している。

『エコノミスト』誌が指摘するように、米国の科学者らは世界で最も優秀な存在として知られてきた。米国には世界トップクラスの大学があり、ノーベル賞受賞者を数多く輩出してきた。米国は最も影響力のある研究論文の主要な発信地であり、連邦政府や産業界からの驚異的な補助金（連邦政府だけで年間1200億ドル＝約18兆6000億円）により、米国は研究に巨額の資金を投じてきた。しかし今や米国のトップ科学者らは困難に直面している。トランプ政権が短期間で既存の資金提供や研究手法を覆してしまったからだ。

トランプ政権の最初の標的は「多様性、公平性、包摂性（DEI）」政策だった。政権側はこれらの「覚醒」の旗印を掲げる干渉が科学に害をもたらすと宣言した。しかしトランプ政権が順次中止する研究には、地球化学から量子物理学に至るまでの幅広い分野も含まれている。国立衛生研究所（NIH）、国立科学財団（NSF）、国防総省、エネルギー省による学術研究への資金提供が影響を受けた。トランプ氏がホワイトハウスに復帰してから、約80億ドル（約1兆2400億円）の研究資金がキャンセルまたは撤回され、これは連邦政府の高等教育支出の16%に相当する。122億ドル（約1兆8900億円）の資金が一時停止されたが、後に裁判所によって回復された。

「反覚醒」から科学への攻撃が本格化

Grant Watchのデータによると、国立衛生研究所と国立科学財団は3000以上の承認済み補助金をキャンセルし、エネルギー省や国防総省も多数の補助金を撤回した。誤情報対策、新型コロナウイルスやワクチン、DEI関連の研究、気候変動、さらには名門大学で進行中の研究プロジェクトに関連する研究計画の多くが削減対象となっている。トランプ氏はまた、国立衛生研究所の予算を38%（約180億ドル＝約2兆7900億円）削減し、国立科学財団の47億ドル（約7300億円）の予算を削減し、NASAの科学任務理事会の予算も半減させようとしている。

トランプ政権の目標は連邦研究機関の支出を400億ドル（約6兆2000億円）削減することであり、多くの機関が既に人員削減に着手している。国立衛生研究所（NIH）は3月に2万人の職を削減すると発表し、環境と気候研究を担当する国家海洋大気庁（NOAA）は約1300人の職を削減している。国立科学財団も人員削減を予定していたが、現在は連邦裁判所により一時的に阻止されている。さらなるコスト削減措置として、連邦政府は大学への補助金額にも厳しい上限を課している。5月15日までにハーバード大学では国立科学財団の補助金188件が停止されており、ハーバード医学校のほぼ全ての連邦拠出金がキャンセルされ、コーネル大学、ブラウン大学、ノースウェスタン大学、プリンストン大学、ペンシルバニア大学も数十億ドル規模の拠出金が凍結され、新材料、超伝導、ロボット、衛星研究に影響が及んでいる。

​​学術人材が米国脱出を模索

​​なぜ米国政府が自国の科学研究を弱体化させようとしているのか。トランプ氏の科学顧問であるマイケル・クラツィオス氏は5月19日、米国の科学研究が非効率で硬直しており、多様性、公平性、包摂性（DEI）について特に集団思考に陥っているため、大幅な改革が必要だと述べた。しかしエコノミスト誌は、科学への攻撃が的外れで偽りに満ちていると指摘し、トランプ政権は科学研究を解放するどころか、科学界に深刻な害を与えていると批判している。米国の科学技術力は世界無比であり、人材を引き寄せる磁石となってきたが、今や世界最高の頭脳が出口を求めて必死になっている。「DEI」に関与しない学術分野でも人材は米国を離れようとしている。

エコノミスト誌は厳しく批判している。トランプ氏がエリート大学を「覚醒主義」と「反ユダヤ主義」の砦として扱い、集団思考を終わらせるという発言も全て虚偽だと指摘している。MAGA陣営は公衆衛生や気候研究者を「説教好きの神経質な人々」と見なし、これらの人々が米国民の自由を抑制したいと考えているため、新型コロナウイルスのパンデミック中に隔離や休校を宣言し、ワクチンや気候研究の予算がほぼ全面的に削減された。米国政府が科学者らに研究内容をほぼ制限し、アルツハイマー病から量子力学に至る研究プロジェクトが一夜にして中止に追い込まれることは、啓蒙主義の自由な思潮に基づく米国にとって確かに驚くべき後退である。

トランプ氏は関税政策により企業が米国への投資に踏み切ることを期待しているが、エコノミスト誌は産業界の研究支出が連邦政府の補助金の穴を埋めることは困難だと警告している。多くの研究プロジェクトが商業化の可能性を持たないためだ。資金凍結により、人材流出の危機が静かに迫っている。今年の最初の3か月間で、米国の科学者による海外での職探しの申請数が前年同期比で3分の1増加し、米国への外国研究者の申請数は4分の1減少した。米国が人材を歓迎する国としての評判を短期間で回復させるのは困難とみられ、残った科学者らは今後数年間、自己検閲を強いられる可能性があり、研究の方向性を変えざるを得ないだろう。

​米国がくしゃみをすると、世界が風邪をひく

​​『エコノミスト』誌は、トランプ氏による科学への攻撃はアメリカだけでなく、全世界に悪影響を及ぼすと指摘している。というのも、アメリカは長年、世界最大の科学研究支援国であり、ノーベル科学賞の受賞者の半数を輩出し、世界トップ10の学術機関のうち4つがアメリカにある。アメリカの科学者が築いてきた知的成果インターネットやmRNAワクチンといった画期的な技術は、常に人類全体に恩恵をもたらしてきた。

しかし、科学者たちが自分の研究が今後も資金を受けられるか分からず、あるいは突然の助成金打ち切りに対して裁判を起こさざるを得ない状況に追い込まれることで、アメリカの科学の効率はますます低下するだろう。

トランプ政権がアメリカの科学力を損なう一方で、他国はアメリカの優秀な科学人材を積極的に引き寄せようとしている。たとえば、カナダのトロント大学ヘルスネットワークやケベック州のラバル大学は、数千万ドル規模の資金を用意し、アメリカ国内の研究者をターゲットにしている。

また、EUのフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は最近パリで、科学者に「ヨーロッパを選んでください」と呼びかけ、EUには十分な研究資金と整備された社会保障制度があるとアピールした。フィンランドのヘルシンキ大学は、SNSを通じてアメリカの研究者向けに「思想の自由」を保証すると訴える広告を打ち出している。中国政府もまた、高額報酬を提示して中国系の科学者の帰国を促すなど、積極的な動きを見せている。

Springer Natureのデータによると、2025年第1四半期において、アメリカの科学者が中国のポストに応募した件数は前年同期比で20％増加した。ポールソン財団の推計では、2022年時点でアメリカのトップAI研究者の約3分の2が海外出身であり、もしこの人材層を失えば、アメリカのイノベーション能力は大きく損なわれるだろう。

『エコノミスト』誌は、アメリカの経済力、科学技術、軍事的優位は、その科学的成果と密接に結びついていると指摘する。アメリカが後退すれば、科学の覇権は権威主義国家・中国の手に渡り、それに伴う利益も同時に失われてしまう。アメリカの科学がくしゃみをすれば、世界が風邪をひく。いま、その言葉が改めて現実味を帯びている。

【日時】2025年05月26日 20:12
【提供】風傳媒

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