タイ警察中央捜査局(CIB)は、白いバンの走行にわずかな違和感を覚えていた。南部ソンクラー県、サダオからハジャイへ向かう国道。車は荷物を乗せているにしては軽やかで、車体は沈んでいるにしては妙に整っていた。CIB傘下、警察道路部隊が追尾を開始し、やがて検問地点で停車を命じた。
開けられたトランクには、57箱のダンボール。そのすべてが、ガムテープで厳重に封印されていた。箱の中に詰まっていたのは、電子タバコ本体と交換用ポッド──その数、合計22,920点。すべてが香り付きで、種類は不明。だが、ひとつとして正規に申告されたものではなかった。
「ただ運んだだけです」運転手はそう言ったかもしれない──そして「中身は知らされていませんでした」と続けたかもしれない。
それは密輸だったのか、あるいは大人の嗜好品としての流通だったのか。いや、そんな問いなど意味はなさない。調査によれば、これらの電子タバコはマレーシア側から持ち込まれ、国内の若者層に向けて販売される予定だったという。
市場価値は約800万バーツ。運転手1人では捌ききれない量であり、背後には何らかの“倉庫的構造”が存在することは疑いない。CIBは現在、供述と通信記録をもとに、上流の資金ルートおよび組織構成の解明に乗り出している。
香りのする犯罪。それは煙と共に立ち昇る幻想だったのか、それともただの在庫処理だったのか。果たして、その真偽を見極められるのは、天のみだったかもしれない。
タイ中央捜査局(CIB)プロフェッショナルで中立、国民と共に。
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