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米国のトランプ大統領は段階的に各国の関税措置を打ち出し、世界の注目を集めている。だがワシントンの政界では、さらに大きな嵐が生まれつつある。嵐の中心はホワイトハウスや議会ではなく、独立性と安定を象徴してきた連邦準備制度理事会（Fed）だ。議長のパウエル氏は、トランプ氏からの多方面にわたる圧力にさらされている。当初、両者の対立は利率政策の根本的な違いから始まったが、いまやトランプ政権は25億ドル（約3,900億円）規模にのぼるFed本部の改修案を、パウエル氏解任の政治的なカードとして使おうとしている。

米CNNによると、Fed本部改修案の予算は当初19億ドル（約2,960億円）とされていたが、現在では25億ドル（約3,900億円）に膨らんでいる。Fedは、予算の超過はアスベストの除去や有毒土壌の対応、地下水位の上昇といった「予測不能な工事」が要因だと説明。計画は2017年に承認され、2021年に着工したもので、パウエル氏個人が主導したものではないと強調している。

Fed本部改修予算25億ドル、パウエル解任の「正当理由」とも

しかしこの説明は、政治的な批判を和らげるどころか疑念を増幅させた。共和党の議員は公聴会で「ベルサイユ宮殿級の豪華さだ」と批判。ホワイトハウスの予算管理局長ヴォート氏はパウエル氏を「著しく管理が不適切」と非難し、議会を誤導した可能性を示唆した。さらに他のホワイトハウス高官も、7億ドル（約1,090億円）規模の予算差異が生じている可能性を指摘した。

ホワイトハウス経済顧問のハセット氏は13日にABCニュースの取材に応じ、Fedが予算の問題を十分に説明できなければ、これは《連邦準備法》（Federal Reserve Act）が定める「正当理由」（for cause）に該当し、大統領が合法的に解任できる根拠になり得ると語った。「これは責任を問われる支出項目だ」とも明言している。

その後、トランプ氏は7月15日の記者会見でパウエル氏について「彼は宮殿に住むような人間ではないが、25億ドルを費やして改修するのは本当に恥ずべきことだ」と発言した。

これに対し、パウエル氏は沈黙を破り、14日にFed内部監査官へ全面的な調査を要請。予算のプロセスが適正かつ透明であることを示す姿勢を打ち出した。

建前は利下げへの消極姿勢、トランプの真の怒りはFedの不服従に

実際には、Fedの改修計画はトランプ氏の初期任期に始まったもので、これまで大きな注目を浴びてこなかった。だがこの問題がいま取り沙汰されるのは偶然ではない。積極的な利下げに踏み切らず、選挙スケジュールに沿わない利率政策、そして「言うことを聞かない」Fedの文化への不満が根底にあるとみられている。

トランプ氏はかねて、Fedに迅速な利下げを求め、1％以下にすべきだと主張してきた。政府債務の利払いを抑える狙いで、パウエル氏を「協力しない」「動きが遅い」と何度も批判し、「Too Late」というあだ名までつけている。

7月15日、米国の6月消費者物価指数（CPI）が公表され、年率2.9％増、コアCPIは月率0.2％増と市場予想に沿った。この発表を受け、トランプ氏はすぐさまSNS「truth social」で「消費者物価は低下傾向！今こそ利下げすべきだ」と投稿した。

一方、パウエル氏は「早期の利下げはインフレを再燃させ、最終的に借入コストを押し上げる恐れがある」との姿勢を崩していない。さらにトランプ氏の新たな関税政策がインフレに与える影響を注視する必要があると強調している。

ホワイトハウス、新たなFed議長選出へ、制度対決が幕を開ける

トランプ氏と側近たちは言葉での圧力にとどまらず、すでに後継人事の手続きを進めている。財務長官のベセント氏は15日、《ブルームバーグテレビ》（Bloomberg Television）の取材で、ホワイトハウスが次期連邦準備制度理事会（FRB）議長の選定を始めていることを確認した。

候補には、元FRB理事のケビン・ウォルシュ氏、ハセット氏、そしてベセント氏自身の名も挙がっている。トランプ氏は、選挙前の経済成長や債務管理を後押しするため、迅速な利下げを支持する議長を据えたい考えだ。

パウエル氏の任期は2026年5月までで、任期終了後も2028年まで理事として残り、政策決定に関与する投票権を保持することができる。ベセント氏は「影の議長」という状態が市場を混乱させかねないとし、「FRBが二つの強い意見を同時に抱えることは難しく、決定の明確性や市場の安定性を損なう恐れがある」と語った。

ベセント氏自身が次期議長にふさわしいかについて、トランプ氏は15日の公開の場で「彼は素晴らしい人物だが、最良の選択肢とは思わない。現職でのパフォーマンスは気に入っている」と述べている。

JPモルガンCEO警告：Fedの独立性、政治干渉を免れるか

FRBの独立性が揺らぐ中、ウォール街では警戒感が高まっている。7月15日には米国2年物国債の利回りが一時3.93％に達し、ブルームバーグ・ドル指数も大きな変動を見せた。

焦点は、パウエル氏が辞任するか否かだけではない。アメリカの制度そのものが、行政権からの圧力に耐えられるのかどうかが問われている。FRBは世界から信頼される中央銀行であり続けるのか、それともホワイトハウスの政策に従属する存在になるのか。トランプ氏とパウエル氏の対立は、単なるワシントンの権力争いにとどまらず、米国制度の安定性を巡る世界的な試金石となっている。

JPモルガン・チェースのCEO、ジェイミー・ダイモン氏は「FRBの独立性は、現議長のパウエル氏に限った話ではなく、次期議長が政治的干渉を免れられるかどうかにかかっている」と公に警告した。

さらに、ジャニー資産管理の固定収益アナリスト、ギー・レバス氏もロイターの取材で懸念を示し、「もし市場が政治的影響力が専門知識を凌駕すると考えるなら、FRBは経済的な実態を無視した利下げに動き、長期的なインフレ圧力や金利カーブの大幅な変動を招く恐れがある」と指摘した。

【日時】2025年07月17日 15:57
【提供】風傳媒

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