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石油などの原料の大半を海外からの輸入に頼る日本にあって、誰もがタダ同然に自由に使うことができる資源が水である。そんな良質の水を一般家庭に供給しているのが水道だが、水道水の出口部分は「蛇口」といわれる。『百年先まで保護していきたい　日本の絶滅危惧知識』（KKベストセラーズ）には、「なぜ、ヘビの口」なのか？　という素朴な疑問をたどっていって、そのいわれを明らかにした一文がある。早速、眺めてみよう。

「水神様」とも縁（ゆかり）の深いヘビ

　水道に欠かせないものといえば蛇口である。近年はレバー式やセンサーつきのタイプも増えてきているが、蛇口といってまず思い浮かぶのは、ひと昔前のキュ、キュッとひねり回す蛇口ではないだろうか。

　しかしその蛇口、よく見てほしい。蛇口、つまりヘビの口という名はついているものの、実際のところヘビの口というよりただの管（くだ）である。誰がいったいコレをヘビの口と名づけたのだろう。

　日本では、江戸時代にはすでに木製の水路を用いた水道が引かれていたが、近代的な水道ができたのは明治時代のこと。

　当初は各家庭に水が運ばれるのではなく、町の中にある共用栓から水をくむ仕組みだった。初期の共用栓は水道の先進国であったイギリスから輸入されたもので、ライオンの口の中から水がザバーッと出るゴージャスなデザイン。

　後に日本で作られるようになると、ヨーロッパで水の神とされるライオンではなく龍の口のデザインが採用され、龍と関連の深いヘビにちなんで蛇体鉄柱式共用栓と名づけられた。それが蛇口という言葉の由来といわれる。

　ヘビは水中でも活動することから、昔から水と縁が深い動物とされ、恵みの雨をもたらす神さまとして崇められてきた。

　蛇口という言葉からは、そんな信仰の片鱗も垣間見られる。最近は蛇口といわずにレバー式水栓とかセンサー水栓という商品名で売られることが増えているので、そのうちに蛇口も死語になってしまいそうだが。

文／吉川さやか（よしかわ・さやか）

早稲田大学卒業後、出版社などでの勤務を経てイタリア、ドイツに留学。ライプツィヒ大学にて言語学を学ぶ。帰国後は編集者、企画制作ディレクターなどとして活動。

監修／新谷尚紀（しんたに・たかのり）

1948年広島県生まれ。国立歴史民俗博物館教授、国立総合研究大学院大学教授等を経て、現在、両名誉教授。著書に『生と死の民俗史』『民俗学とは何か』『神道入門　民俗伝承学から日本文化を読む』など多数。

【日時】2023年04月22日 21:00
【提供】BEST TiMES

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