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『ドキュメント72時間』が切り取る人生の一瞬

かなり際どいTバックの水着を履いた男がNHKの画面いっぱいに映し出された。

ナレーションのピエール瀧も「ちょっと、ちょっと……!」とツッコむほど、お尻と違和感丸出し。

男は、40歳代の精密機械関係の研究職だという。

「あんまり視線は感じないですけどね。みんな見て見ぬふりをしているのかもしれないですけど」 と、こともなげにインタビューに答え、「泳ぎやすいから」と言い残し、湘南の海の中に入っていった。

7月18日に放送された『ドキュメント72時間』(NHK総合)は「湘南・海を見つめる理由」と題して、海開きまでまだ1カ月近くある6月初めの湘南の海岸に密着していた。

この番組は毎回、ある一カ所に3日間、即ち72時間密着し、そこを訪れる人々を定点観測するという趣向のドキュメント番組である。

2006年からレギュラー放送が始まり、一時中断を挟みながらも、「湘南」の回で50回目を迎えた。

「寝るのよ。ここで朝日を見るの」 と、海岸を訪れた理由を語るのは、50歳代の建築業の男性。

驚く取材スタッフに「何よ、何よ? 普通じゃん!」と、人懐っこい表情で笑う。

ただひたすら酒を飲んで夜を過ごし、朝日を待ち、海で出会った人との思い出をノートにつづっていくのだという。

「ここにいるだけで十分だって。あちこち旅行に行く必要なんてねえよ、湘南最高!」 彼は女性から縛られるのが嫌で、二度の離婚を経験。

「寂しくないですか?」と問われると「いや、いいよ。海があれば」と笑って、また酒をグビッと飲むのだった。

夜明け前、スタッフが再びその男性のもとへ行くと、彼は熟睡していた。「朝日見なくていいんですか?」と声をかけるスタッフに、目を覚ます男。

「大丈夫だ、寝る」 と朝日には目もくれず、また目を閉じるのだった。

スーツ姿の若者も、砂浜で海を眺めていた。

聞けば、会社でいろいろあり、悩んでいるのだという。

「今日はちょっと現実逃避」 行き場もなく、そこにたどり着いた。

空と海と砂しかないこの海岸に、さまざまな人がそれぞれの思いを抱えて行き交う。

それを番組は静かなトーンで克明に映し出していく。

これまでも「東京駅高速バスターミナル」「銀座の宝くじ売り場」「上野アメ横のまんが喫茶」「フェリー」「すすきのの24時間にぎりめし屋」「大阪・西成の貸しロッカー」「鶯谷の大衆食堂」など多種多様な場所を定点観測してきたこの番組。

同じ場所を72時間撮り続けるのが基本だが、少し変わり種もある。

たとえば「オン・ザ・ロード 国道16号の“幸福論”」と題された回(2014年6月13日放送)。

横須賀〜町田〜八王子〜春日部〜千葉と、「郊外」を結ぶ約250キロの道を3日間かけて移動しながら、そこに行き交う人を映すというものである。

この回は、あのマツコ・デラックスも注目。

「郊外」の魅力を『怒り新党』(テレビ朝日系)で語っていたマツコは「他局だけど…」と断りながら、この放送が楽しみだと熱弁していた。

「春日部のヤツが『オレ、地元好きですから!』って言ってるのが番宣で使われてて、もう(予約)録画してきちゃった(笑)」 その春日部の若者は17歳。

同級生の彼女と共に国道沿いのバッティングセンターを訪れていた。

デートはいつも地元。

土木関係の仕事に就く彼は、彼女が高校を卒業したら一緒に暮らすつもりだという。

夢は春日部に家を建てること。

「あんまり離れたくないです、春日部を」 大型ショッピングモールやチェーン店ばかり続く国道16号沿いの街並みは今、「現代日本を象徴する風景」として注目を浴びているという。

そこでスタッフは、16号で出会った人たちに「幸せですか?」と尋ねるのだった。

工場勤務の男性、福山雅治のツアー荷物を運ぶトラック運転手、ショッピングモールで遊ぶ中学生……。

多くの人たちがさまざまな不満や葛藤を抱えながらも「幸せ」だと答える。

夜明け前の国道沿いには、黙々とウォーキングに励む人たちが多い。

そんな中で、犬を散歩させている男性がいた。

「かわいそうだから俺が飼ってあげたの」と話すその男は、ホームレスだという。「これがいなけりゃ、アパート借りれるんだけど」と笑い、仕事に行く準備を始める男性。

「人生気ままがいいんだよ」と言いながら。

ホームレスから地元を愛するヤンキー、そしてTバックで堂々と海岸を歩く男……。

72時間の密着で、さまざまな人の人生を映し出す。

それは人生の中では一瞬でしかないのかもしれない。

けれど、切り取られた一瞬だからこそ、如実に“その人”を表している。

その一瞬の人間模様が連なった72時間は、今の日本や日本人を鮮明に浮き彫りにしているのだ。

「湘南の海」の回では道に迷った末、海岸で海を眺めながら休んでいるエステ店に勤める40代の女性がいた。

「私、ストレスたまらないんです」と、彼女は言う。

けれど、20代の頃は、仕事や結婚生活など「生きるのがストレスだった」という。

スタッフに「20代の頃、この近くを通ったら、この海岸に来ていましたか?」と尋ねられた彼女は「いや、降りないと思う」と答えた。

「海があるのが気づかないと思う。自分の中だけに入ってて、周りを見なかったから」 この番組を見ていると、さまざまな一瞬の人間模様を通して「誰とも違う」ことを実感できる。

だから、感じることのできる共感と発見がある。

誰もがみんなと違う人生を歩んでいるという一点において、みんな同じだ。

そして自分と同じように、他者の人生にリアリティを感じることができる。

『ドキュメント72時間』は、そこに「海がある」ことを気づかせてくれるドキュメントなのだ。
【日時】2014年07月24日 15:00
【提供】日刊サイゾー

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