🌎 国際ニュース

アメリカのトランプ大統領は「アメリカ・ファースト」を掲げた選挙キャンペーンを展開しているが、イランへの空爆など対外軍事行動を取る姿勢は一部の支持層の方針と乖離があるとも指摘されている。2020年の選挙戦中、トランプ氏は「内部の敵」が中国やロシア以上に危険だと述べ、必要とあれば国民警備隊や軍隊を投入すると示唆しており、当時から物議を醸していた。

6月初旬、ロサンゼルスではトランプ政権の移民政策に反対するデモが発生。米移民・税関執行局（ICE）が不法移民の一斉検挙を実施し、平均で1日約2,000人を逮捕。バイデン政権時代の311人と比べ急増したことが、労働者層に動揺を広げ、抗議行動が激化した。デモ隊は街を封鎖し、連邦ビルを取り囲んで破壊行為に及び、連邦職員への暴力も報告されている。法執行機関は催涙ガスやスタングレネード、ゴム弾で対応したが、トランプ氏はカリフォルニア州のニューサム知事を飛ばして、6月7日に国民警備隊と海兵隊を派遣するよう命令を下した。

ロサンゼルスへの部隊派遣、60日間の駐留計画に懸念の声

現在、約4,000人の国民警備隊と700人の海兵隊員が市内に展開しており、その任務は連邦ビルの警備と連邦機関の業務支援に限定されている。『ガーディアン』紙によれば、デモは徐々に沈静化しているが、軍の動員が民主党系地方首長との摩擦を引き起こし、軍の上層部も懸念を示している。

退役した四つ星将軍や元国防高官らは、トランプ氏の行動は「先例から逸脱している」とする声明を発表。軍は本来、外国の脅威に備えるためのものであり、国内政治や治安維持に使うべきではないとの見解を示した。彼らは軍展開命令の撤回を求め、訴訟の準備に入っている。国家安全保障の専門家ジュリア・イオフ氏は、「こうした軍事的な決定は国内に留まらず、外に波及する」と述べ、実際にトランプ氏はイランの核施設3カ所への攻撃を指示した。

政府は、部隊が少なくとも60日間駐留する方針を示しており、国土安全保障省のノーム長官は「暴徒や略奪者に屈しない姿勢を示す」と語った。さらに、街頭の秩序維持だけでなく、「社会主義的な知事や市長から都市を解放する」ことも目的だと述べた。

抗議の波はロサンゼルスを起点にニューヨーク、アトランタ、シカゴなどに拡大。6月14日には全米各地で「No Kings」デモが行われた。デモ参加者は連邦ビル前で海兵隊員と対峙し、「ロサンゼルスを出ろ！」と叫ぶ場面もあった。警察は催涙ガスや騎馬部隊で群衆の解散を図った。

トランプ政権で「国境の皇帝」と称されたトム・ホーマン氏は、移民取締りを妨害する州知事や市長の逮捕に言及。これまでにICE業務を妨害したとして、ニュージャージー州議員のラモニカ・マクアイヴァー氏と、ニューヨーク市監査役のブラッド・ランダー氏が逮捕されている。

ロサンゼルスに拠点を置く国民組織や退役軍人団体によれば、軍は政治的対立への介入を誇りとせず、政治に関与する意思も持たないとされる。このため、現地に派遣されている国民警備隊や海兵隊は直接的な衝突の場に姿を見せておらず、その一方で、覆面をした身元不明の捜査官が移民を標的とした摘発を続けていることが注目されている。

しかし、法学者や安全保障の専門家は、軍の配備そのものが政治的緊張を高めかねないと警告する。ヒューストン大学法律センターの国家安全保障専門家であるクリス・ミラソラ氏は、「軍の配備には常にエスカレーションや誤算のリスクがつきまとう。今回のような展開は、その危険性が極めて高い」と指摘し、「展開の決定自体が事態をさらに悪化させる」と懸念を示した。

軍隊の政治化は民主主義を侵食する可能性

大統領が地方政府の同意を得ずに国内へ武装部隊を展開することは、極めて稀な対応である。1807年に制定された《暴乱法》（Insurrection Act）は、内乱や司法制度の機能不全が発生した際、州政府の要請に基づき国民警備隊などを動員する権限を大統領に与えている。しかし、この法律には明確な適用条件が条文化されておらず、連邦と州の権限を巡る問題を抱えている。近年の適用例としては、1992年のロサンゼルス暴動がある。

今回トランプ大統領は、《アメリカ法典》第10編を援用し、国民警備隊を大統領の指揮下に置く形での展開を命じた。これは、1965年に当時のジョンソン大統領がアラバマ州知事ジョージ・ウォレス氏に対抗し、公民権運動を保護するために用いた手法と類似している。ミラソラ氏は、今回のような状況で「暴徒」という表現が用いられながらも、比較的穏便な手段が選ばれたことに注目し、「彼はただ軍を街に展開し、緊張を煽ることを狙ったのかもしれない」と分析する。軍は《暴乱法》に対して非常に慎重な姿勢を保っており、トランプ氏がより攻撃的な対応を指示しきれなかった可能性もあるという。

国民兵の指揮を巡る法廷闘争

カリフォルニア州は、この軍の展開を違法としてトランプ政権を提訴した。サンフランシスコ連邦地裁は州の訴えを認め、州の国民警備隊指揮権を即時返還するよう命じたが、第九巡回控訴裁判所は6月19日、これを覆し、トランプ大統領による指揮の継続を認定した。

州側の主張の柱は、近年国民警備隊が本来の災害対応任務から逸脱し、政治的・市民的活動に動員される例が増えているという点にある。たとえば、ニューメキシコ州では教員不足を補うために国民警備隊を教壇に立たせ、フロリダ州では刑務所職員の代替に、ニューヨーク州では地下鉄の警備に投入された事例がある。

「保衛民主主義（Protect Democracy）」の顧問弁護士ボー・トレミティエレ氏は、「軍は国内の法執行を担うべきではなく、そもそもそのための訓練を受けていない」と述べた。ニューサム知事も、今回の軍配備は州の自治権を侵害するものであり、1965年以来初めて、大統領が州知事の許可なく国民警備隊を配備した例だと批判している。

専門家は、今回のケースが連邦政府による権限拡張の前例となり、州と連邦の管轄の境界を曖昧にする懸念を表明している。トレミティエレ氏は、「今回のロサンゼルスへの配備は、アメリカ人が軍の政治利用という危機にようやく気づく契機となるはずだ。軍と市民の健全な関係こそが、民主主義のもう一つの砦であり、それがいま試されている」と述べている。

【日時】2025年06月26日 13:13
【提供】風傳媒

元記事を読む