わずか2日間のうちに、ライブ配信中に銃撃され命を落としたメキシコのインフルエンサー、ヴァレリア・マルケスさん(左、23歳)と、自宅前で偽装宅配員に襲撃されたコロンビアのマリア・ホセ・エストゥピニャンさん(右、22歳)。(画像はそれぞれのInstagramおよびFacebookより)メキシコで13日、23歳の女性インフルエンサー、ヴァレリア・マルケス(Valeria Márquez)さんがライブ配信中に銃撃され死亡した。わずか2日後の15日には、コロンビアでも22歳のインフルエンサー、マリア・ホセ・エストゥピニャン(María José Estupiñán)さんが自宅前で銃撃され、命を落とした。英紙『ガーディアン紙』によると、これらの事件はラテンアメリカにおける女性に対する暴力、いわゆる「フェミサイド(femicide)」への怒りを呼び起こしており、人権団体は政府の対応の不十分さを厳しく批判している。
偽装宅配員が玄関先で犯行 顔を撃たれた被害者
マリアさんは、コロンビア北東部の都市ククタ(Cúcuta)でモデル兼インフルエンサーとして活動していた。15日の事件当日は自宅でライブ配信中だったが、警察によると、宅配員を装った犯人がインターホンを押し、マリアさんが応対に出たところ至近距離から顔を撃たれたという。防犯カメラには、犯行後に逃走する人物の姿が映っていた。
マリアさんはTiktokで約4万8千人のフォロワーを持ち、再生回数が170万回を超える人気動画もあった。旅行や水泳、ジム通いなど日常を発信しながら、女性向けの下着やスポーツ用品、靴などを販売するビジネスも展開していた。
@majo.estVioooo
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コロンビア司法機関のジェンダー委員会のマグダ・ビクトリア・アコスタ(Magda Victoria Acosta)委員長は「彼女は若く、野心にあふれた女性で、未来には多くの可能性があった。しかし、多くのコロンビア女性と同様に、その夢は無残に絶たれてしまった」と悼んだ。
前日に家庭内暴力で勝訴 判決の翌日に襲撃
警察の初期調査では、この事件が性別を動機とする「フェミサイド」の可能性が高いとされている。マリアさんは生前、元交際相手からの家庭内暴力を繰り返し裁判所に訴えており、事件前日に裁判所が加害者に約3,000万ペソ(日本円で約23万円)の賠償を命じる判決を出していた。しかし、その判決が彼女の命を守ることにはつながらなかった。
女性の権利を擁護する弁護士は「法律上の勝利が、現実の安全につながらないのがこの国の現状だ」と『ガーディアン』に語っている。
28時間に1人、女性が殺される現実
地元の女性支援団体「ウーマン、スピークアウト&ムーブイット(Woman, Speak Out and Move It)」のディレクター、アレハンドラ・ベラ(Alejandra Vera)氏は「マリアさんの死は単なる偶然ではない。彼女は制度に従い、家庭内暴力を報告し、保護を求めていた。それにもかかわらず、国家は彼女を守れなかった」と非難した。
同氏によれば、コロンビアでは28時間ごとに女性が殺害されており、「これは制度的な放置と加害者への甘さの結果だ」と訴える。
さらにベラ氏は、「女性たちは法的手続きを踏み、証拠を提出し、助けを求めている。しかし、保護命令は実効性を欠き、加害者の監視もなく、避難所の支援も不十分。加害者たちはそれを知っていて、何の抑止力も感じていない」と警鐘を鳴ら
フェミサイドの件数、過去最多に
コロンビアのフェミサイド観測機関(Colombian Observatory of Femicides)によると、2024年に報告されたフェミサイド事件は886件と、過去7年間で最多に。2025年3月までにもすでに207件が確認されており、当局が発表している公式の数字でも、2024年11月時点で640件を超えている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)は、コロンビアにおける性別を背景とした暴力は「広範かつ慢性的」であり、加害者が処罰されることは「極めてまれ」だと指摘する。
ベラ氏は、女性の権利を守る法制度は存在するものの「形だけの存在」になっており、「警察官の人員や訓練が不足し、検察の専門性も欠如。再犯者に対する監視も実施されていない」と述べた。全国女性ネットワーク(National Women’s Network)のデータによれば、2021年から2023年にかけてのフェミサイド事件のうち、約73%が未解決のままだという。
メキシコでも人気インフルエンサーが犠牲に
今回の事件は、メキシコで起きた女性インフルエンサー、ヴァレリア・マルケス(Valeria Márquez)さんの殺害事件とも共通点がある。ヴァレリアさんは13日、ハリスコ州の美容院でInstagramのライブ配信中に銃撃された。
彼女は、ソーシャルプラットフォームInstagramとTikTokで総計56万人近くのフォロワーを持っていた。
Valeria Marquez(@v___marquez)による投稿
配信中、「ヴァちゃん?」という男性の声にヴァレリアさんが反応した後、配信は一時的に消音され、その直後に襲撃を受けたとされている。彼女はInstagramとTikTok合わせておよそ56万人のフォロワーを持ち、若者を中心に人気を博していた。
メキシコの検察はこの事件をフェミサイドとして捜査しているが、SNS上では当初の同情が薄れ、被害者に対するバッシングも目立った。「違法行為に関わっていた」「元恋人が麻薬組織の一員だった」といった憶測が飛び交い、社会学者は『ロイター』に「これは深刻な性差別と文化的偏見の表れだ」と語っている。
「彼女の死を無駄にしないで」 女性たちが声を上げる
マリアさんの死を受け、ククタや首都ボゴタでは複数の女性団体が抗議行動を呼びかけている。週末に執り行われた葬儀では、遺族が「マホ(Majo)、あなたの人生はまるで素晴らしい旅でした。短くとも輝かしい時間でした。どうか自由に、そして高く舞い上がってください」と涙ながらに語った。